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episode4.初コミケ
4話-①
美咲くんと綾香さんが仲直りしてから、三人で遊びに行く機会も増えた。
私は同性のお友達が欲しかったので、綾香さんとも仲良くなれてとても嬉しかった。
そして、本日はなんとその綾香さんに呼び出されて、私達は集まることになったのであった。
楽しみなあまり、いつもよりちょっと早めに家を出てしまい、待ち合わせの時間よりも少し早く着いてしまった。
さすがにまだ誰も来ていないよね?遅刻するよりはマシか。
なんて思っていたら、後ろから声をかけられた。
「よ。茜ちゃん早いね?」
その声の主は美咲くんだった。一人じゃないと分かった途端、急に安心した。
「おはよう、美咲くん。実は楽しみすぎて、いつもより早めに家を出ちゃって…えへへ」
美咲くんの顔が真っ赤になっていき、顔を手で覆った。
私はその仕草の意図がよく分からず、何故、美咲くんが顔を隠したのかよく分からなかった。
「……………………わいい」
声が小さくて聞き取りずらかった。
「え?何て言ったの?」
私が聞き返すと、美咲くんの顔は更に赤くなり、耳まで真っ赤になった。
「だ・か・ら、可愛いって言ったの……っ!」
私が?可愛い?冗談…じゃないよね?美咲くんはそんなことで冗談を言う人ではない。
どういう反応をしたらいいのか分からず、今度は私の顔が真っ赤になってしまった。
「ごめん。待った~?」
絶妙なタイミングで綾香さんが登場し、美咲くんが舌打ちをした。
「…っち。綾香、後で覚悟しておけよ」
「え?私何かした?なんかごめん…」
どんな反応をしたらいいのか分からず、困っていたので、私は逆に綾香さんがあのタイミングで現れてくれて助かったと思った。
「綾香さん。今日は私にも声をかけて下さり、ありがとうございます」
「いえいえ。こちらこそ来てくれてありがとう」
ってきり、私には連絡なんてこないものだとばかり思っていた。
だって彼女は美咲くんのことが大好きだから、私なんて邪魔者でしかないはず…。
ここは遠慮しておくべきところだったのかな?これじゃまるで、人の恋路の邪魔をしているみたいだ。
だとしたら私、嫌な女だな。でも、三人で一緒に居るのが楽しいから、つい来てしまったのであった…。
「で、何のために俺らは呼び出されたわけ?」
私達はいつも特に目的を決めずに集合するので、今回もダラダラ一緒に遊ぶだけかと思っていた。
「あのさ、今年の夏コミに三人で一緒に参加しない?」
夏コミとは、夏のコミックマーケットの略称で、大規模な同人誌即売会イベントのことである。
大半は好きな作品の二次創作の同人誌を作って売ったりしている手作り感のあるイベントだが、近年では多くの企業も参加しているため、公式のアニメグッズなども販売されたりしている。
ちなみに私達の目的は、言わずとも同人誌であるため、基本的に企業ブースには並ばないことが多い。
私は元々、今年の夏コミには一人で参加する予定でいた。
何故なら、今回、アイスマが夏コミに企業ブースとして参加するからである。
もちろん興味はあるのだが、人気コンテンツなため、長蛇の列になることが予想されるであろう。
うーん…これは……厳しい夏の戦いになりそうだ。
「いいですね。せっかくなので、一緒に参加しましょう。
ただ、アイスマの企業ブースにも並びたいので、同人ジャンルの日程が発表されてから、何日目に参戦するか決めたいです……」
「へぇー。茜さんってアイスマが好きなのね。私、まだアイスマに手を出せてなくて。
最近人気だから気になってるんだけど、アイスマって面白い?」
きみプリが好きだと聞いていたので、ってきりやっているものだとばかり思い込んでいた。
これはおすすめしたら、ハマってくれそうな予感がするので、とりあえず、綾香さんにアイスマをおすすめしてみた。
「面白いですよ。人気声優さんもたくさん出演しているので、おすすめですよ」
「え?そうなの?例えば?」
「蓮見 和真様とか一ノ瀬 廉様とかが出てますよ」
次の瞬間、バンと机に両手を置き、綾香さんが席を立った。
「マジで?蓮見 和真と一ノ瀬 廉が出ているのにやっていないとか、私のヲタク人生の中で汚点だわ……」
どうやら、和真様と廉様のファンみたいだ。
「もしかして、和真様と廉様のファンとかですか?」
「ファン…というか、女性は皆大好きな声でしょ?!」
激しく共感である。あの声を嫌いな人なんていないはずだ。
「分かります。皆、あの声で恋に落ちると思うんですよね」
「でしょ?だから、その二人が出演しているというのに、スルーしてた自分が憎い……」
好きすぎて愛が重い時、人は大事な情報を見落としてしまうことがある。
きっとそういうことなのだと思う…。いや、私が勝手にそういうことにした。
「大丈夫です。今からやってみましょう。
ちなみに私と美咲くんのおすすめは、KINGです。お二人の担当しているキャラクターが所属しているユニットでもあるので」
「……なるほど。KINGね。今、インストールしてみるわ」
すると、ここで美咲くんが呆れたように溜息を吐いた。
「なぁ、そろそろお店の中に入らないか?ずっと立ち話ってわけにもいかないし」
「そうね。そうしましょ。ねぇ、早速アプリをインストールしたいから、フリーWiFiがあるお店でもいい?」
「…まぁ、俺はどこでもいいけど。茜ちゃんは?」
「私もそれで構わないですよ」
美咲くんに指摘されるまで、お店の中にまだ入っていないことにすら気づいていなかった。
どうやら、綾香さんもそのようだ。そして、流れのままに適当にフリーWiFiがあるお店を選んだ。
そう。フリーWiFiといえば、カフェ。
まさか三人でスタボへ来る日が訪れるなんて思わなかった…。
「なんかリベンジしに来たって感じだな」
「だね…。懐かしい……」
「何の話?私は知らない感じ?」
「まぁ、知らないといえば知らない話だな。ねぇ、茜ちゃん?」
美咲くんが何故、秘密にするかはよく分からなかったが、私も美咲くんに合わせて秘密にすることにした。
「まぁ、そんな感じです…」
「二人だけの秘密…ってことね。それならこれ以上は踏み込まないでおくわ」
案外、あっさりとしていた。そのことに私は驚いた。
もっと気にするものかと思ってた。だって、好きな人が他の女の子と仲良くなんてしていたら、普通は嫌なものだ。
なのに、気にしないってことは余裕があるってことなのかもしれない。
綾香さんほどの美人にもなると、私なんか眼中にも及ぼないということであろう。
「そんなことより、早く注文しちゃいましょ。美咲、私が代わりに注文しておくから、先に席を確保してきて」
土日のカフェは激混みなため、店員さんの方から事前に席を確保しておりますか?と確認されるくらいだ。
綾香さんは気を利かせて、先に動くことが多いので、本当にこういうところはたくさん見習いたいといつも思わされる。
「分かった。よろしく頼む」
美咲くんも相手が綾香さんだったからか、遠慮がなかった。
きっと私が相手だったら、お互いに遠慮しちゃって押し問答になっていたと思う。
綾香さんと三人になってから、こういう状況に直面した時、とても助けられている。
「綾香さんはすごいですね。常に周りをちゃんと見れていて」
「そんなことないわよ。私だって周りが見えなくなることくらいあるし」
全く想像できなかった。きっとそれでも私より視野が広いはず…。
「…ねぇ、そろそろ敬語は止めて、呼び捨てとかにしない?なんだか堅苦しいし」
顔を赤らめながら、私にそう伝えてきた綾香さん。
どうやら、私がずっと敬語で話していたのを気にしていたみたいだ。
美咲くんと喋る時だけ私はタメ口で、綾香さんに対してはまだどこか距離を感じていたため、敢えて敬語で喋っていた。
いつかもっと仲良くなれたらタメ口で…と思っていた。
まさか綾香さんの方から提案してくれるなんて思わなかったので、とても嬉しかった。
「分かった。敬語はもう止める。これでいいよね?…綾香」
初めて呼び捨てで名前を呼んだ。なんだか改まると照れくさくて、こちらまで恥ずかしくなってしまった。
「…うん。それでいいよ、茜」
もっと綾香とも距離が縮まったような気がして、ニヤケてしまった。
「どうしてニヤけてるのよ。こっちは恥ずかしいんだからね」
「人聞きが悪いな。私だって恥ずかしいよ…。
でも、同時に嬉しくもあるんだ」
「どうしてよ?」
「綾香と距離が縮まったからに決まってるじゃん」
「…はぁ。あんたって天然タラシね」
どうして私が天然タラシなの?普通のことを言っただけなのに…。
「天然タラシ?どういうこと?」
「少しは自分で考えてみなさい。
…話の途中でごめんね。もう順番が回ってきたから、お先に注文させてもらうわね」
どういう意味だろうか。何か気に障ることでも言ったのだろうか。
「あ、うん。行ってらっしゃい」
私はよく分からないまま、自分の順番が回ってきたので、この事は一旦、忘れて注文することにした。
*
綾香に呼び出されて告白されて、フッてから綾香は変わった。
妙に協力的というか…。好きだった人の恋を応援できるアイツの懐の深さに関心させられた。
もし、俺が逆の立場だったら耐えられないと思う。
茜ちゃんに好きな人がいたら嫌だ。好きな人がいないと言われても複雑な気持ちなわけだが…。
だってそれって、イコール俺なんて眼中にないと言われているのだと同じだからだ。
意識はされたい。男として…。どうやったら、友達という枠からはみ出せるのだろうか。
そのための一歩として、アイツは皆でコミケに行こうと誘ってくれたのかもしれない。
「ごめん。お待たせ。混んでたから遅くなった」
まずは先に綾香が戻ってきた。本当に俺の分も一緒に頼んでくれたみたいだ。
「わりー。ありがとう。俺の分の金払うわ」
「あーそれはいいや。その代わり、もっと茜にアピっていきなさい。
これはあんたらが上手くいくまでの貸しだから」
あまり人に貸しを作りたくはない性分なので、本当なら断りたいところだが、コイツなりに気を使ってくれているのであろう。ここは素直に甘えてみることにした。
「了解。うまくいった暁には俺がお前に何か奢ってやるよ」
「よろしく。楽しみに待ってる」
「あんまり高いものとか請求すんなよ。そんなにお金持ってねーからな」
「分かってるってば。あんたあたしをなんだと思ってるの?」
「あざとい。量産型…」
「間違ってないから否定しないけど、なんかムカつく…」
コイツとこんなふうに言い争っているのも、なんだか変な感じだ。
もうお互いに好きって感情が全くないからこそ、こんなふうに会話することができるのかもしれない。
「ありがとな。コミケに誘ってくれて。俺のためなんだろ?感謝してる」
「…ふん。あんたのためだけじゃないわよ。私が茜と行きたいって思ったからなの」
そういえばさっきも思ったんだが、いつの間にか茜なんて呼び捨てにしてるし…。
俺だって呼び捨てにしたいと思っていたのをずっと我慢していたのに、先を越されてしまった。
「え?いつの間に呼び捨てにするようになったの?」
「さっき列に一緒に並んで待っている時にね。
あ、茜も戻ってきたわよ。おいで~。こっちこっち~」
やっぱりコイツはあざといなと思った。油断も隙もねーよ。
「ただいま。美咲くん、お待たせしちゃってごめんね…」
潤んだ瞳で上目遣いをしながら、そう言われた。
この子は俺が君のことを好きだと分かった上で、わざとやっているのかな。
だとしたらだよ?男は好きな女の子にそんな目をされたらね、我慢できなくなるんだよ?
彼女じゃない子に、そんなことをする勇気なんて俺にはないので、心の中で密かに可愛いと思うことにした。
「ううん。それは大丈夫。それよりも、二人が呼び捨てにし合ってるのが羨ましいなと思ったんだけど」
大人気なく拗ねてしまった。こんなことをしても、茜ちゃんを困らせるだけなのに…。
「さっきそうなったの。美咲くんも私のこと呼び捨てにしたいなら、しても大丈夫だよ?」
え?いいの?内心、ガッツポーズをした。
「じゃ、俺も遠慮なく呼び捨てにさせてもらうね。………茜」
ただ名前を呼ぶだけなのに、好きな人の名前だと、こんなにも緊張するものなのだと知った。
「わ、私はこのまま美咲くんって呼んでもいい?」
え…。どうして?流れ的に俺のことも呼び捨てにしてくれるのかと思っていた矢先の出来事だった。
「あのね、美咲くんのことは美咲くんって呼びたいの。
名前が女の子みたいだからってこともあるけどね、美咲くんは男の子だから、ちゃんとくんを付けたいんだ」
不覚にも可愛いと思ってしまった。これは可愛いさのゲシュタルト崩壊だ。
「うん。それでいい。寧ろそのままでいてくれ…」
呼び捨てとかに拘っている自分がバカらしく思えた瞬間だった。
「あの…お二人さん、私がいることを忘れないでもらえます?」
俺はすっかり綾香が居たことを忘れていた。
今日は綾香の呼び出しで集合していたんだった…。
「ごめんね。そんなつもりはなくて…」
「茜には言ってないから大丈夫だよ。主に美咲に向けて…ね?」
綾香は不敵な笑みを浮かべていた。
おい。お前、人が大人しく黙っているからって、調子乗るなよ…。
私は同性のお友達が欲しかったので、綾香さんとも仲良くなれてとても嬉しかった。
そして、本日はなんとその綾香さんに呼び出されて、私達は集まることになったのであった。
楽しみなあまり、いつもよりちょっと早めに家を出てしまい、待ち合わせの時間よりも少し早く着いてしまった。
さすがにまだ誰も来ていないよね?遅刻するよりはマシか。
なんて思っていたら、後ろから声をかけられた。
「よ。茜ちゃん早いね?」
その声の主は美咲くんだった。一人じゃないと分かった途端、急に安心した。
「おはよう、美咲くん。実は楽しみすぎて、いつもより早めに家を出ちゃって…えへへ」
美咲くんの顔が真っ赤になっていき、顔を手で覆った。
私はその仕草の意図がよく分からず、何故、美咲くんが顔を隠したのかよく分からなかった。
「……………………わいい」
声が小さくて聞き取りずらかった。
「え?何て言ったの?」
私が聞き返すと、美咲くんの顔は更に赤くなり、耳まで真っ赤になった。
「だ・か・ら、可愛いって言ったの……っ!」
私が?可愛い?冗談…じゃないよね?美咲くんはそんなことで冗談を言う人ではない。
どういう反応をしたらいいのか分からず、今度は私の顔が真っ赤になってしまった。
「ごめん。待った~?」
絶妙なタイミングで綾香さんが登場し、美咲くんが舌打ちをした。
「…っち。綾香、後で覚悟しておけよ」
「え?私何かした?なんかごめん…」
どんな反応をしたらいいのか分からず、困っていたので、私は逆に綾香さんがあのタイミングで現れてくれて助かったと思った。
「綾香さん。今日は私にも声をかけて下さり、ありがとうございます」
「いえいえ。こちらこそ来てくれてありがとう」
ってきり、私には連絡なんてこないものだとばかり思っていた。
だって彼女は美咲くんのことが大好きだから、私なんて邪魔者でしかないはず…。
ここは遠慮しておくべきところだったのかな?これじゃまるで、人の恋路の邪魔をしているみたいだ。
だとしたら私、嫌な女だな。でも、三人で一緒に居るのが楽しいから、つい来てしまったのであった…。
「で、何のために俺らは呼び出されたわけ?」
私達はいつも特に目的を決めずに集合するので、今回もダラダラ一緒に遊ぶだけかと思っていた。
「あのさ、今年の夏コミに三人で一緒に参加しない?」
夏コミとは、夏のコミックマーケットの略称で、大規模な同人誌即売会イベントのことである。
大半は好きな作品の二次創作の同人誌を作って売ったりしている手作り感のあるイベントだが、近年では多くの企業も参加しているため、公式のアニメグッズなども販売されたりしている。
ちなみに私達の目的は、言わずとも同人誌であるため、基本的に企業ブースには並ばないことが多い。
私は元々、今年の夏コミには一人で参加する予定でいた。
何故なら、今回、アイスマが夏コミに企業ブースとして参加するからである。
もちろん興味はあるのだが、人気コンテンツなため、長蛇の列になることが予想されるであろう。
うーん…これは……厳しい夏の戦いになりそうだ。
「いいですね。せっかくなので、一緒に参加しましょう。
ただ、アイスマの企業ブースにも並びたいので、同人ジャンルの日程が発表されてから、何日目に参戦するか決めたいです……」
「へぇー。茜さんってアイスマが好きなのね。私、まだアイスマに手を出せてなくて。
最近人気だから気になってるんだけど、アイスマって面白い?」
きみプリが好きだと聞いていたので、ってきりやっているものだとばかり思い込んでいた。
これはおすすめしたら、ハマってくれそうな予感がするので、とりあえず、綾香さんにアイスマをおすすめしてみた。
「面白いですよ。人気声優さんもたくさん出演しているので、おすすめですよ」
「え?そうなの?例えば?」
「蓮見 和真様とか一ノ瀬 廉様とかが出てますよ」
次の瞬間、バンと机に両手を置き、綾香さんが席を立った。
「マジで?蓮見 和真と一ノ瀬 廉が出ているのにやっていないとか、私のヲタク人生の中で汚点だわ……」
どうやら、和真様と廉様のファンみたいだ。
「もしかして、和真様と廉様のファンとかですか?」
「ファン…というか、女性は皆大好きな声でしょ?!」
激しく共感である。あの声を嫌いな人なんていないはずだ。
「分かります。皆、あの声で恋に落ちると思うんですよね」
「でしょ?だから、その二人が出演しているというのに、スルーしてた自分が憎い……」
好きすぎて愛が重い時、人は大事な情報を見落としてしまうことがある。
きっとそういうことなのだと思う…。いや、私が勝手にそういうことにした。
「大丈夫です。今からやってみましょう。
ちなみに私と美咲くんのおすすめは、KINGです。お二人の担当しているキャラクターが所属しているユニットでもあるので」
「……なるほど。KINGね。今、インストールしてみるわ」
すると、ここで美咲くんが呆れたように溜息を吐いた。
「なぁ、そろそろお店の中に入らないか?ずっと立ち話ってわけにもいかないし」
「そうね。そうしましょ。ねぇ、早速アプリをインストールしたいから、フリーWiFiがあるお店でもいい?」
「…まぁ、俺はどこでもいいけど。茜ちゃんは?」
「私もそれで構わないですよ」
美咲くんに指摘されるまで、お店の中にまだ入っていないことにすら気づいていなかった。
どうやら、綾香さんもそのようだ。そして、流れのままに適当にフリーWiFiがあるお店を選んだ。
そう。フリーWiFiといえば、カフェ。
まさか三人でスタボへ来る日が訪れるなんて思わなかった…。
「なんかリベンジしに来たって感じだな」
「だね…。懐かしい……」
「何の話?私は知らない感じ?」
「まぁ、知らないといえば知らない話だな。ねぇ、茜ちゃん?」
美咲くんが何故、秘密にするかはよく分からなかったが、私も美咲くんに合わせて秘密にすることにした。
「まぁ、そんな感じです…」
「二人だけの秘密…ってことね。それならこれ以上は踏み込まないでおくわ」
案外、あっさりとしていた。そのことに私は驚いた。
もっと気にするものかと思ってた。だって、好きな人が他の女の子と仲良くなんてしていたら、普通は嫌なものだ。
なのに、気にしないってことは余裕があるってことなのかもしれない。
綾香さんほどの美人にもなると、私なんか眼中にも及ぼないということであろう。
「そんなことより、早く注文しちゃいましょ。美咲、私が代わりに注文しておくから、先に席を確保してきて」
土日のカフェは激混みなため、店員さんの方から事前に席を確保しておりますか?と確認されるくらいだ。
綾香さんは気を利かせて、先に動くことが多いので、本当にこういうところはたくさん見習いたいといつも思わされる。
「分かった。よろしく頼む」
美咲くんも相手が綾香さんだったからか、遠慮がなかった。
きっと私が相手だったら、お互いに遠慮しちゃって押し問答になっていたと思う。
綾香さんと三人になってから、こういう状況に直面した時、とても助けられている。
「綾香さんはすごいですね。常に周りをちゃんと見れていて」
「そんなことないわよ。私だって周りが見えなくなることくらいあるし」
全く想像できなかった。きっとそれでも私より視野が広いはず…。
「…ねぇ、そろそろ敬語は止めて、呼び捨てとかにしない?なんだか堅苦しいし」
顔を赤らめながら、私にそう伝えてきた綾香さん。
どうやら、私がずっと敬語で話していたのを気にしていたみたいだ。
美咲くんと喋る時だけ私はタメ口で、綾香さんに対してはまだどこか距離を感じていたため、敢えて敬語で喋っていた。
いつかもっと仲良くなれたらタメ口で…と思っていた。
まさか綾香さんの方から提案してくれるなんて思わなかったので、とても嬉しかった。
「分かった。敬語はもう止める。これでいいよね?…綾香」
初めて呼び捨てで名前を呼んだ。なんだか改まると照れくさくて、こちらまで恥ずかしくなってしまった。
「…うん。それでいいよ、茜」
もっと綾香とも距離が縮まったような気がして、ニヤケてしまった。
「どうしてニヤけてるのよ。こっちは恥ずかしいんだからね」
「人聞きが悪いな。私だって恥ずかしいよ…。
でも、同時に嬉しくもあるんだ」
「どうしてよ?」
「綾香と距離が縮まったからに決まってるじゃん」
「…はぁ。あんたって天然タラシね」
どうして私が天然タラシなの?普通のことを言っただけなのに…。
「天然タラシ?どういうこと?」
「少しは自分で考えてみなさい。
…話の途中でごめんね。もう順番が回ってきたから、お先に注文させてもらうわね」
どういう意味だろうか。何か気に障ることでも言ったのだろうか。
「あ、うん。行ってらっしゃい」
私はよく分からないまま、自分の順番が回ってきたので、この事は一旦、忘れて注文することにした。
*
綾香に呼び出されて告白されて、フッてから綾香は変わった。
妙に協力的というか…。好きだった人の恋を応援できるアイツの懐の深さに関心させられた。
もし、俺が逆の立場だったら耐えられないと思う。
茜ちゃんに好きな人がいたら嫌だ。好きな人がいないと言われても複雑な気持ちなわけだが…。
だってそれって、イコール俺なんて眼中にないと言われているのだと同じだからだ。
意識はされたい。男として…。どうやったら、友達という枠からはみ出せるのだろうか。
そのための一歩として、アイツは皆でコミケに行こうと誘ってくれたのかもしれない。
「ごめん。お待たせ。混んでたから遅くなった」
まずは先に綾香が戻ってきた。本当に俺の分も一緒に頼んでくれたみたいだ。
「わりー。ありがとう。俺の分の金払うわ」
「あーそれはいいや。その代わり、もっと茜にアピっていきなさい。
これはあんたらが上手くいくまでの貸しだから」
あまり人に貸しを作りたくはない性分なので、本当なら断りたいところだが、コイツなりに気を使ってくれているのであろう。ここは素直に甘えてみることにした。
「了解。うまくいった暁には俺がお前に何か奢ってやるよ」
「よろしく。楽しみに待ってる」
「あんまり高いものとか請求すんなよ。そんなにお金持ってねーからな」
「分かってるってば。あんたあたしをなんだと思ってるの?」
「あざとい。量産型…」
「間違ってないから否定しないけど、なんかムカつく…」
コイツとこんなふうに言い争っているのも、なんだか変な感じだ。
もうお互いに好きって感情が全くないからこそ、こんなふうに会話することができるのかもしれない。
「ありがとな。コミケに誘ってくれて。俺のためなんだろ?感謝してる」
「…ふん。あんたのためだけじゃないわよ。私が茜と行きたいって思ったからなの」
そういえばさっきも思ったんだが、いつの間にか茜なんて呼び捨てにしてるし…。
俺だって呼び捨てにしたいと思っていたのをずっと我慢していたのに、先を越されてしまった。
「え?いつの間に呼び捨てにするようになったの?」
「さっき列に一緒に並んで待っている時にね。
あ、茜も戻ってきたわよ。おいで~。こっちこっち~」
やっぱりコイツはあざといなと思った。油断も隙もねーよ。
「ただいま。美咲くん、お待たせしちゃってごめんね…」
潤んだ瞳で上目遣いをしながら、そう言われた。
この子は俺が君のことを好きだと分かった上で、わざとやっているのかな。
だとしたらだよ?男は好きな女の子にそんな目をされたらね、我慢できなくなるんだよ?
彼女じゃない子に、そんなことをする勇気なんて俺にはないので、心の中で密かに可愛いと思うことにした。
「ううん。それは大丈夫。それよりも、二人が呼び捨てにし合ってるのが羨ましいなと思ったんだけど」
大人気なく拗ねてしまった。こんなことをしても、茜ちゃんを困らせるだけなのに…。
「さっきそうなったの。美咲くんも私のこと呼び捨てにしたいなら、しても大丈夫だよ?」
え?いいの?内心、ガッツポーズをした。
「じゃ、俺も遠慮なく呼び捨てにさせてもらうね。………茜」
ただ名前を呼ぶだけなのに、好きな人の名前だと、こんなにも緊張するものなのだと知った。
「わ、私はこのまま美咲くんって呼んでもいい?」
え…。どうして?流れ的に俺のことも呼び捨てにしてくれるのかと思っていた矢先の出来事だった。
「あのね、美咲くんのことは美咲くんって呼びたいの。
名前が女の子みたいだからってこともあるけどね、美咲くんは男の子だから、ちゃんとくんを付けたいんだ」
不覚にも可愛いと思ってしまった。これは可愛いさのゲシュタルト崩壊だ。
「うん。それでいい。寧ろそのままでいてくれ…」
呼び捨てとかに拘っている自分がバカらしく思えた瞬間だった。
「あの…お二人さん、私がいることを忘れないでもらえます?」
俺はすっかり綾香が居たことを忘れていた。
今日は綾香の呼び出しで集合していたんだった…。
「ごめんね。そんなつもりはなくて…」
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