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episode4.初コミケ
4話-⑤
「本当は打ち上げに焼肉でもって思ってたんだけど、綾香も途中で帰っちゃったし、それに前に三人で焼肉に行ったこともあるから、どうしようかなと思って…」
確かに打ち上げに焼肉も悪くないかもしれない。
でも、ここはヲタク。茜の考えていることはお見通しだ。
「でも、やっぱりご飯代にかけるお金より、お宝の掘り出しに使いたいってことでしょ?」
「正解。その性には逆らえぬ…」
それは俺も右に同じくだ。できるだけ推しに貢ぎたい。何かを削ってでも…。
「俺もその気持ちはよく分かるよ。できれば食費は安く済ませたいよな…」
だってその分、商業BLのコミックスが何冊買えるか…なんて考え始めたらキリもないが…。
しかし、それがヲタクなのであった。
「うん。そうだね。なるべく安く済ませたいね。
その浮いたお金で漫画が一冊買えるもんね」
全く同じことを考えていたことがとても嬉しかった。
好きな子と同じ思考になれるなんていう奇跡が起きただけで、胸が高鳴った。
「お、おう。だから俺はこの後、気になってた同人誌買うわ…」
咄嗟に慌ててよく分からないことを言ってしまった。
あながち間違いではいないので、嘘はついていないから良しとしよう。
「その同人誌について詳しく教えて」
どうやら茜は、俺の咄嗟のよく分からない言い訳に食いついてしまったみたいだ。
まぁ、気になってる同人誌を答えるくらい構わないが、今更になって好きな子にちょっとハードなBLのタイトルを答えるのが恥ずかしくなってきた…。
「えっと…イラストサイトで話題の創作BLなんだけど…」
お願いだ。茜が知っていて、これだけで察してくれますように…。
「あー…なんか知ってるかも。先生、ボクに×××してください。お尻に○△□を…(※以下自粛規制)でしょ?」
好きな子の口から聞く卑猥な単語は、破壊力がとてつもなかった。
「あ、うん、そう!それ!さすが茜。よく知ってたね」
周りに聞こえていないか、とてつもなく不安になった。
だってもし、聞こえていたら、俺達が今からそういうプレイをするという目で見られないか心配になったからである。
「美咲くん、顔真っ赤だよ?そんなに恥ずかしかったの?」
恥ずかしいよ?!好きな子にエロ本買うって暴露しているようなものだし。
あと顔が真っ赤なのは、恥ずかしさよりも茜の口からとんでもない単語を聞いたからだよ?!…なんて言えるはずなかった。
「そりゃ…まぁ、一応、男なもんで。そういうの買ってるって知られるのは恥ずかしいかな」
好きな子相手ならな。綾香なら気にせずにタイトルも言えるけど。
「そっか。野暮なこと聞いてごめんね」
正直、こちらとしては複雑な気持ちであった。
好きな子にハードなBL本が欲しいことがバレてしまったという気まずさと、好きな子の口から卑猥な単語が聞けてご馳走様と思う自分で…。
「いや、別に…。大丈夫だからもう気にしないで」
「美咲くんがそういうのならば、気にしないでおくね」
段々、居た堪れない気持ちになってきた。
なんだか言わせてしまった罪悪感で胸がいっぱいだった。
「でも、気になってる同人誌があるのいいね。その同人誌、あったら私も買おうかな」
え?あのハードなBLを茜が読むの?!
思わずそんな姿を想像してしまった。
「あぁ。あるといいな…」
敢えて茜が買うことには触れずに、この話は流した。
「そうこうしているうちに、着いたよ」
着いた先は某青いアニメショップの近くだった…。
「こんなところにファミレスなんてあったんだな。知らなかった…」
何度も足は運んでいるというのに、まさかこんなところにあるなんて見落としていた。
人は案外、見落としがちなんだと思い知らされた。
「今まで池袋に来た時は、ファミレスに入ることはなかったもんね」
確かに今までファミレスに行くことはなかった。
いつも大体カフェで落ち合うことが多いので、たまにはファミレスも悪くないかもしれない。
「そうだな。とりあえず、中に入ろっか」
「そうだね。入ろっか」
外に列はできていなかったため、どうやら空いているみたいだ。
お昼時を少し外していたので、それもあるのかもしれない。
「俺が扉を開けるね」
茜に男であるところを見せたいという見栄が働き、率先して行動することができた。
「どうぞ。お先に入ってください」
「ありがとう。美咲くんは相変わらず優しいね」
誰にでも優しいのではなく、好きな子にだけ優しくしていると気づいてほしい。
「ううん、そんなことはないよ。俺は優しくしたいと思った人にだけ優しいんだよ?」
多分きっと意味に気づいてはくれない。
それでも構わない。少しでも茜の中で引っかかってくれればそれでいいと思った。
「それは皆そうじゃないかな。私もそうだよ」
さすがにこれじゃ弱すぎたか。
効果がなかったことにショックを受けつつ、次の作戦を練るのであった。
「そ、そうだよな…あはは。んなことよりさ、とりあえず中に入ってくれ…」
「あ、うん…そうするね」
多少、強引過ぎたところもあるかもしれないが、いつまでも入口に立っているわけにもいかないので、この話題はここで一旦、切り上げることにした。
「いらっしゃいませ。二名様でよろしいですか?」
「はい。そうです」
「畏まりました。二名様、お席へご案内致します」
店員さんに空いている席に適当に案内された。
「ご注文が決まりましたら、そちらのボタンを押してお呼びください」
とだけ言い残して、店員は速やかに去っていった。
俺は席に案内されるまでに何人かコスプレをしている人や、キャリーケースを持ったお客を見た。
なんだか少し安心した。店内が同士だらけで…。
「とりあえず、何を注文するか決めよっか」
「だな。何にしよっかな…」
今まであまりイベントに参加したことがなかったから、こうしてヲタクだけがいる空間に安心している自分がいた。
「うーん、私はなんか今、お肉が食べたい気分かな。あと甘いものも」
疲れていると甘いものが食べたくなる気持ちはよく分かる。
それにお肉も。先程まで戦場で戦ってきたばかりなので、栄養を補給したいところだ。
「俺もお肉が食べたいな。それに甘いものも…」
「美咲くんって甘いもの好きだよね。結構食べてるイメージあるかも」
そう。実は甘いものが俺は大好きだ。
男で甘いものが好きなんて恥ずかしいと思っていた時期もあったが、最近は男でも甘いものが好きな人が多いので、結構オープンにしている。
「うん。俺、甘いもの好きだよ。覚えててくれたんだね」
「うん。だって美咲くんだから」
え?俺だからなの?!分かってる。特に深い意味なんてないことは…。どうせ友達だからに決まっている。
「え、あ、うん。ありがとう。嬉しい…」
分かっていても好きな子に期待あるような素振りを見せられてしまうと、心が勝手に踊ってしまうのであった。
「なんかそう言われるとこっちまで照れてきちゃうな…あはは」
少し気まずい空気が流れ始めたので、話題を変えてみることにした。
「なぁ、それよりもさ、今日買った同人誌の話でもしないか?」
話題が同人誌に変わったことにより、茜はどこか安心した様子だ。
有難いことに周りからは、俺らがお似合いだと言ってもらえるが、どうもお互いにこういったことに疎くて、苦手意識があるため、なかなか甘い雰囲気になれない。
このままで大丈夫なのかという焦りと、このままがいいと思うから、なかなか恋愛に踏み出せないことを分かってほしかった。
「そう…だね。でも、まずは注文してからにしない?」
茜に指摘されて気づいた。まだ何も注文していないことに…。
「そうだな。注文するか」
まずは先に注文することにした。よくメニューも見ずに、適当に注文した。
茜はハンバーグで、俺はステーキ。そして、ファミレスといえば定番のドリンクバーも…。
「それじゃ、さっきの話の続きをしよっか」
やっと同人誌の話ができると、二人してどこか浮かれているように感じた。
「おう。話そう。まずは俺から話してもいい?」
「いいよ。話聞くよ」
「ありがとう。それじゃ遠慮なくいかせてもらいます」
「それじゃ、さっきの話の続きをしよっか」
やっと同人誌の話ができると、二人してどこか浮かれているように感じた。
「おう。話そう。まずは俺から話してもいい?」
「いいよ。話聞くよ」
「ありがとう。それじゃ遠慮なくいかせてもらいます」
一呼吸置いてから話し始めた…。
「俺、今日は基本的に慧理(※慧斗様×理人様のカップリングの略称)本がメインだったんだけど、過去の推しカプの本もあったから、それも買った」
ずっと足を運びたいと夢見ていたコミケへ参加でき、やっと夢を叶えることができた。
はしゃいでたくさん買ってしまった。この幸せを分かち合いたい。特に茜と…。
「…って、いきなりフルスロットルで話し始めてごめん」
カッコ悪いな…俺。こういう時、カッコいい男は女の子に気配りしつつ話すんだろうなと思ったら、落ち込み始めた。
「ううん。私は美咲くんの話が聞けて嬉しいよ。
話してくれてありがとう」
お礼が言いたいのはこちらの方だ。何から何まで…。
まさかアイスマのグッズの件と幸子先生の同人誌の件を、茜が担ってくれていたなんて思わなかった。
特に同人誌の件については感謝している。俺が幸子先生を好きだということもあるが、茜と幸子先生の間には何かしらの事情がある感じなのに、それでも俺のために動いてくれた。
茜には頭が上がらない。何かしらお礼がしたいと思った。
「いやいや、俺の方こそ。話まで聞いてもらった上に、同人誌とアイスマのグッズの件ではお世話になりました。ありがとう」
「あーそのことは気にしないで。たまたま知り合いだっただけだからさ。
それにアイスマのグッズに関しては、真さんの方から声をかけてきてくれたから、なんとかなったところもあるし。
お礼は真さんに言うといいよ。後で連絡先教えるね」
見事に幸子先生の話題はスルーする茜。
やっぱり触れてほしくないことなんだなと思った。
「マジで助かる。俺、あの人に失礼な態度取っちゃったからさ。謝罪も兼ねてお礼も言わなくちゃ…」
あの人が幸子先生の彼氏さんだとは知らずに、ってきりライバルかと思って突っ走ってしまった。
そもそも何も教えてもらえていなかったので、俺が勘違いしてもおかしくないと思う。
「え?美咲くん何かしたの?」
忘れていた。茜が俺の気持ちに気づいていないことを…。
「あーいや、俺、知らない人がいてびっくりしちゃってさ。ちょっとツンケンした態度取っちゃったから、まずかったなと思ってさ。ただそれだけ。あはは…」
あなたが他の男と仲良くしていたから嫉妬していましたなんて、口が裂けても言えねー…。
「そうだったの?でも、多分、真さん気にしてなかったと思うから大丈夫だと思うよ」
あの人はきっと大人だから、きっと大丈夫だとは思うけど、恋人がいるにも関わらず、俺の勝手な思い込みで勘違いしてしまったことについては謝罪したい。
きっと俺の気持ちに気づいていたと思う。本当、どうして本人にはそれが伝わらないのだろうか。
そして、何故、下の名前で呼ぶんだ?それも気になる…。
「それならいいけどさ。ってか、下の名前で呼ぶくらい仲良いんだね」
「え?私と真さんが?!普通だよ?そんなに話したことないし」
茜が何て呼ぼうが自由なのは分かっている。
でも、それじゃ下の名前で呼ぶ必要なんてないんじゃないか?と思ったが、変に対抗心を燃やしてもあの人には彼女がいるのだと自分に言い聞かせて、気持ちを落ち着かせた。
「へー。そうなんだ…」
これでも気づかないなんて、どんだけ茜は鈍感なんだよ?!
まぁ、幸子先生に忠告されるくらいだし。仕方ないか。
「話題を変えてもいい?」
この気まずい空気を変えるために、茜から提案してきた。
好きな子に気を使わせるなんてカッコ悪いが、ここは素直に甘えることにした。
「うん。大丈夫だよ」
「ありがとう。あのね、私は久しぶりにコミケに参加できて楽しかった。美咲くんと綾香と参加できたから」
それは俺も同じだ。特にコミケに参加することを提案してくれた綾香には感謝している。
「俺も今日初めてコミケで同人誌を買えたことが嬉しかったな。
今までは通販とかで買ってたから、なんだか作家さんって本当に実在しているのかな?ってずっとどこか現実味がなかったんだよな」
ずっとどんな人がこの本を書いているんだろうと、想像するだけでワクワクした。
現実に存在していると知れただけでも今の俺にとっては幸せなのであった。
「それ凄いよく分かる。私もずっとそれ思ってたもん」
さすが同士。こういう話を分かち合えることが嬉しかった。
「分かってもらえて何より。それでね俺、今日こう思ったんだ。本当に実在しているんだなって。
本物に会えて幸せだった……」
特に幸子先生にお会いできたことが嬉しかった。
もちろん、他の作家様もお目にかかれて、この上ない幸せだ。
だけど、まさかずっと憧れていた作家様にお会いできるなんて思ってもみなかったし、その方と友達が知り合いという偶然も込みで、俺は自分が世界一幸せ者だと思った。
「うんうん。分かるわ。私も初めて大好きな同人作家様にお会いできた時は、本当にすごい嬉しかったな…」
誰しも大好きな人や憧れている人に会えた時は、この上ない幸せに包まれているのだと知った。
「やっぱりこういう話を分かってくれるのは茜だよな。茜に分かってもらえて、俺はすげー嬉しい」
もし、恋人同士になったとしても、きっと俺らはこういう話をたくさんするんだろうなと思った。
「それなら良かった。初コミケを楽しめたみたいでよかったよ」
「おう!すげー楽しかった。綾香には改めて感謝しないとな…」
「そうだね。綾香がいなかったら、コミケに参加しようって話も出なかったかもしれないもんね」
やっぱり茜は、幸子先生と何かあるんだと確信した。
コミケに行きたくないほど、先生に会いたくない何か訳があるのかもしれない。
触れていいのか分からないが、ここで何も触れずにいる方が、後々しこりになって残りそうな気がしたので、敢えて触れてみることにした。
確かに打ち上げに焼肉も悪くないかもしれない。
でも、ここはヲタク。茜の考えていることはお見通しだ。
「でも、やっぱりご飯代にかけるお金より、お宝の掘り出しに使いたいってことでしょ?」
「正解。その性には逆らえぬ…」
それは俺も右に同じくだ。できるだけ推しに貢ぎたい。何かを削ってでも…。
「俺もその気持ちはよく分かるよ。できれば食費は安く済ませたいよな…」
だってその分、商業BLのコミックスが何冊買えるか…なんて考え始めたらキリもないが…。
しかし、それがヲタクなのであった。
「うん。そうだね。なるべく安く済ませたいね。
その浮いたお金で漫画が一冊買えるもんね」
全く同じことを考えていたことがとても嬉しかった。
好きな子と同じ思考になれるなんていう奇跡が起きただけで、胸が高鳴った。
「お、おう。だから俺はこの後、気になってた同人誌買うわ…」
咄嗟に慌ててよく分からないことを言ってしまった。
あながち間違いではいないので、嘘はついていないから良しとしよう。
「その同人誌について詳しく教えて」
どうやら茜は、俺の咄嗟のよく分からない言い訳に食いついてしまったみたいだ。
まぁ、気になってる同人誌を答えるくらい構わないが、今更になって好きな子にちょっとハードなBLのタイトルを答えるのが恥ずかしくなってきた…。
「えっと…イラストサイトで話題の創作BLなんだけど…」
お願いだ。茜が知っていて、これだけで察してくれますように…。
「あー…なんか知ってるかも。先生、ボクに×××してください。お尻に○△□を…(※以下自粛規制)でしょ?」
好きな子の口から聞く卑猥な単語は、破壊力がとてつもなかった。
「あ、うん、そう!それ!さすが茜。よく知ってたね」
周りに聞こえていないか、とてつもなく不安になった。
だってもし、聞こえていたら、俺達が今からそういうプレイをするという目で見られないか心配になったからである。
「美咲くん、顔真っ赤だよ?そんなに恥ずかしかったの?」
恥ずかしいよ?!好きな子にエロ本買うって暴露しているようなものだし。
あと顔が真っ赤なのは、恥ずかしさよりも茜の口からとんでもない単語を聞いたからだよ?!…なんて言えるはずなかった。
「そりゃ…まぁ、一応、男なもんで。そういうの買ってるって知られるのは恥ずかしいかな」
好きな子相手ならな。綾香なら気にせずにタイトルも言えるけど。
「そっか。野暮なこと聞いてごめんね」
正直、こちらとしては複雑な気持ちであった。
好きな子にハードなBL本が欲しいことがバレてしまったという気まずさと、好きな子の口から卑猥な単語が聞けてご馳走様と思う自分で…。
「いや、別に…。大丈夫だからもう気にしないで」
「美咲くんがそういうのならば、気にしないでおくね」
段々、居た堪れない気持ちになってきた。
なんだか言わせてしまった罪悪感で胸がいっぱいだった。
「でも、気になってる同人誌があるのいいね。その同人誌、あったら私も買おうかな」
え?あのハードなBLを茜が読むの?!
思わずそんな姿を想像してしまった。
「あぁ。あるといいな…」
敢えて茜が買うことには触れずに、この話は流した。
「そうこうしているうちに、着いたよ」
着いた先は某青いアニメショップの近くだった…。
「こんなところにファミレスなんてあったんだな。知らなかった…」
何度も足は運んでいるというのに、まさかこんなところにあるなんて見落としていた。
人は案外、見落としがちなんだと思い知らされた。
「今まで池袋に来た時は、ファミレスに入ることはなかったもんね」
確かに今までファミレスに行くことはなかった。
いつも大体カフェで落ち合うことが多いので、たまにはファミレスも悪くないかもしれない。
「そうだな。とりあえず、中に入ろっか」
「そうだね。入ろっか」
外に列はできていなかったため、どうやら空いているみたいだ。
お昼時を少し外していたので、それもあるのかもしれない。
「俺が扉を開けるね」
茜に男であるところを見せたいという見栄が働き、率先して行動することができた。
「どうぞ。お先に入ってください」
「ありがとう。美咲くんは相変わらず優しいね」
誰にでも優しいのではなく、好きな子にだけ優しくしていると気づいてほしい。
「ううん、そんなことはないよ。俺は優しくしたいと思った人にだけ優しいんだよ?」
多分きっと意味に気づいてはくれない。
それでも構わない。少しでも茜の中で引っかかってくれればそれでいいと思った。
「それは皆そうじゃないかな。私もそうだよ」
さすがにこれじゃ弱すぎたか。
効果がなかったことにショックを受けつつ、次の作戦を練るのであった。
「そ、そうだよな…あはは。んなことよりさ、とりあえず中に入ってくれ…」
「あ、うん…そうするね」
多少、強引過ぎたところもあるかもしれないが、いつまでも入口に立っているわけにもいかないので、この話題はここで一旦、切り上げることにした。
「いらっしゃいませ。二名様でよろしいですか?」
「はい。そうです」
「畏まりました。二名様、お席へご案内致します」
店員さんに空いている席に適当に案内された。
「ご注文が決まりましたら、そちらのボタンを押してお呼びください」
とだけ言い残して、店員は速やかに去っていった。
俺は席に案内されるまでに何人かコスプレをしている人や、キャリーケースを持ったお客を見た。
なんだか少し安心した。店内が同士だらけで…。
「とりあえず、何を注文するか決めよっか」
「だな。何にしよっかな…」
今まであまりイベントに参加したことがなかったから、こうしてヲタクだけがいる空間に安心している自分がいた。
「うーん、私はなんか今、お肉が食べたい気分かな。あと甘いものも」
疲れていると甘いものが食べたくなる気持ちはよく分かる。
それにお肉も。先程まで戦場で戦ってきたばかりなので、栄養を補給したいところだ。
「俺もお肉が食べたいな。それに甘いものも…」
「美咲くんって甘いもの好きだよね。結構食べてるイメージあるかも」
そう。実は甘いものが俺は大好きだ。
男で甘いものが好きなんて恥ずかしいと思っていた時期もあったが、最近は男でも甘いものが好きな人が多いので、結構オープンにしている。
「うん。俺、甘いもの好きだよ。覚えててくれたんだね」
「うん。だって美咲くんだから」
え?俺だからなの?!分かってる。特に深い意味なんてないことは…。どうせ友達だからに決まっている。
「え、あ、うん。ありがとう。嬉しい…」
分かっていても好きな子に期待あるような素振りを見せられてしまうと、心が勝手に踊ってしまうのであった。
「なんかそう言われるとこっちまで照れてきちゃうな…あはは」
少し気まずい空気が流れ始めたので、話題を変えてみることにした。
「なぁ、それよりもさ、今日買った同人誌の話でもしないか?」
話題が同人誌に変わったことにより、茜はどこか安心した様子だ。
有難いことに周りからは、俺らがお似合いだと言ってもらえるが、どうもお互いにこういったことに疎くて、苦手意識があるため、なかなか甘い雰囲気になれない。
このままで大丈夫なのかという焦りと、このままがいいと思うから、なかなか恋愛に踏み出せないことを分かってほしかった。
「そう…だね。でも、まずは注文してからにしない?」
茜に指摘されて気づいた。まだ何も注文していないことに…。
「そうだな。注文するか」
まずは先に注文することにした。よくメニューも見ずに、適当に注文した。
茜はハンバーグで、俺はステーキ。そして、ファミレスといえば定番のドリンクバーも…。
「それじゃ、さっきの話の続きをしよっか」
やっと同人誌の話ができると、二人してどこか浮かれているように感じた。
「おう。話そう。まずは俺から話してもいい?」
「いいよ。話聞くよ」
「ありがとう。それじゃ遠慮なくいかせてもらいます」
「それじゃ、さっきの話の続きをしよっか」
やっと同人誌の話ができると、二人してどこか浮かれているように感じた。
「おう。話そう。まずは俺から話してもいい?」
「いいよ。話聞くよ」
「ありがとう。それじゃ遠慮なくいかせてもらいます」
一呼吸置いてから話し始めた…。
「俺、今日は基本的に慧理(※慧斗様×理人様のカップリングの略称)本がメインだったんだけど、過去の推しカプの本もあったから、それも買った」
ずっと足を運びたいと夢見ていたコミケへ参加でき、やっと夢を叶えることができた。
はしゃいでたくさん買ってしまった。この幸せを分かち合いたい。特に茜と…。
「…って、いきなりフルスロットルで話し始めてごめん」
カッコ悪いな…俺。こういう時、カッコいい男は女の子に気配りしつつ話すんだろうなと思ったら、落ち込み始めた。
「ううん。私は美咲くんの話が聞けて嬉しいよ。
話してくれてありがとう」
お礼が言いたいのはこちらの方だ。何から何まで…。
まさかアイスマのグッズの件と幸子先生の同人誌の件を、茜が担ってくれていたなんて思わなかった。
特に同人誌の件については感謝している。俺が幸子先生を好きだということもあるが、茜と幸子先生の間には何かしらの事情がある感じなのに、それでも俺のために動いてくれた。
茜には頭が上がらない。何かしらお礼がしたいと思った。
「いやいや、俺の方こそ。話まで聞いてもらった上に、同人誌とアイスマのグッズの件ではお世話になりました。ありがとう」
「あーそのことは気にしないで。たまたま知り合いだっただけだからさ。
それにアイスマのグッズに関しては、真さんの方から声をかけてきてくれたから、なんとかなったところもあるし。
お礼は真さんに言うといいよ。後で連絡先教えるね」
見事に幸子先生の話題はスルーする茜。
やっぱり触れてほしくないことなんだなと思った。
「マジで助かる。俺、あの人に失礼な態度取っちゃったからさ。謝罪も兼ねてお礼も言わなくちゃ…」
あの人が幸子先生の彼氏さんだとは知らずに、ってきりライバルかと思って突っ走ってしまった。
そもそも何も教えてもらえていなかったので、俺が勘違いしてもおかしくないと思う。
「え?美咲くん何かしたの?」
忘れていた。茜が俺の気持ちに気づいていないことを…。
「あーいや、俺、知らない人がいてびっくりしちゃってさ。ちょっとツンケンした態度取っちゃったから、まずかったなと思ってさ。ただそれだけ。あはは…」
あなたが他の男と仲良くしていたから嫉妬していましたなんて、口が裂けても言えねー…。
「そうだったの?でも、多分、真さん気にしてなかったと思うから大丈夫だと思うよ」
あの人はきっと大人だから、きっと大丈夫だとは思うけど、恋人がいるにも関わらず、俺の勝手な思い込みで勘違いしてしまったことについては謝罪したい。
きっと俺の気持ちに気づいていたと思う。本当、どうして本人にはそれが伝わらないのだろうか。
そして、何故、下の名前で呼ぶんだ?それも気になる…。
「それならいいけどさ。ってか、下の名前で呼ぶくらい仲良いんだね」
「え?私と真さんが?!普通だよ?そんなに話したことないし」
茜が何て呼ぼうが自由なのは分かっている。
でも、それじゃ下の名前で呼ぶ必要なんてないんじゃないか?と思ったが、変に対抗心を燃やしてもあの人には彼女がいるのだと自分に言い聞かせて、気持ちを落ち着かせた。
「へー。そうなんだ…」
これでも気づかないなんて、どんだけ茜は鈍感なんだよ?!
まぁ、幸子先生に忠告されるくらいだし。仕方ないか。
「話題を変えてもいい?」
この気まずい空気を変えるために、茜から提案してきた。
好きな子に気を使わせるなんてカッコ悪いが、ここは素直に甘えることにした。
「うん。大丈夫だよ」
「ありがとう。あのね、私は久しぶりにコミケに参加できて楽しかった。美咲くんと綾香と参加できたから」
それは俺も同じだ。特にコミケに参加することを提案してくれた綾香には感謝している。
「俺も今日初めてコミケで同人誌を買えたことが嬉しかったな。
今までは通販とかで買ってたから、なんだか作家さんって本当に実在しているのかな?ってずっとどこか現実味がなかったんだよな」
ずっとどんな人がこの本を書いているんだろうと、想像するだけでワクワクした。
現実に存在していると知れただけでも今の俺にとっては幸せなのであった。
「それ凄いよく分かる。私もずっとそれ思ってたもん」
さすが同士。こういう話を分かち合えることが嬉しかった。
「分かってもらえて何より。それでね俺、今日こう思ったんだ。本当に実在しているんだなって。
本物に会えて幸せだった……」
特に幸子先生にお会いできたことが嬉しかった。
もちろん、他の作家様もお目にかかれて、この上ない幸せだ。
だけど、まさかずっと憧れていた作家様にお会いできるなんて思ってもみなかったし、その方と友達が知り合いという偶然も込みで、俺は自分が世界一幸せ者だと思った。
「うんうん。分かるわ。私も初めて大好きな同人作家様にお会いできた時は、本当にすごい嬉しかったな…」
誰しも大好きな人や憧れている人に会えた時は、この上ない幸せに包まれているのだと知った。
「やっぱりこういう話を分かってくれるのは茜だよな。茜に分かってもらえて、俺はすげー嬉しい」
もし、恋人同士になったとしても、きっと俺らはこういう話をたくさんするんだろうなと思った。
「それなら良かった。初コミケを楽しめたみたいでよかったよ」
「おう!すげー楽しかった。綾香には改めて感謝しないとな…」
「そうだね。綾香がいなかったら、コミケに参加しようって話も出なかったかもしれないもんね」
やっぱり茜は、幸子先生と何かあるんだと確信した。
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好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。