プシュケ【8/22完結】

草刈絢衣

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Thirteen ★

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 部屋のドアがノックされた。ちらりと時計を見る。4時前だ。返事も待たずに入ってきたのはアレクシスだった。そういえばと、用事を言いつけたことを思い出す。その表情でユーリがすっかり忘れていたことを悟ったのか、アレクシスがあからさまに嫌そうな顔をした。

「このわがままガッティーナ。人に用事を押し付けておいて」

 言って、ユーリがよく紅茶を飲んでいる窓際のデスクに数冊の本を置く。そしてこちらに視線をよこしたあとでおおと声を出した。

「駐屯地であんなことされたのに、無防備だこと」

 言われて、ユーリは少し顔をあげて自分の格好を見た。ベッドに仰向けになって足を組んで本を読んでいるだけだ。リボンタイプのベルトを緩く締めていたせいかローブの襟がはだけて胸も腹も見えているが、別にだろうと思う。

 それともパンツ履いてなかったっけ? と思いながらもう少し顔をあげたが、ちゃんと履いている。言われている意味が分からず、ユーリは本を閉じて頭もとに置くと、上半身を起こした。

「この程度で文句言ってちゃ、収容所での出来事を知ったら鼻血吹くんじゃねえの?」

 オレガノのイル・セーラはレイプ被害とは無縁そうだもんなと意地悪く笑う。アレクシスが近付いてきた。ベッドの足元まで来ると、脚をみせるなとローブの裾を整えられた。

「アルテミオも言っていたけど、軍人って脚フェチの気でもあんの?」

「そうじゃねえけど、ミカと同じ顔だから余計になんか背徳感が。
 ミカは暴れん坊だし立場的にも俺がいる手前もあって誰からも手ぇ出されないけど、べべ曰く一般隊員からはそういう対象らしいぞ。あのすました顔を歪ませて泣かせてみたい、的な?」

 そもそもが脚の線がキレイって普通は男が男に思わねえわなあとアレクシスが言う。

「ふうん、俺はずっと自分が商品だったから、ミカエラは恵まれてんなァっておもったけど」

「レオナが亡くなったあとで産まれたわけだし、そっくりだし、そりゃあ蝶よ花よと育てられる。アスラも昔から自分のほうが身体が丈夫だからと、自分が守っているつもりでいる」

 ミカはミカでアスラを矢面に立たせたくないらしいとアレクシスが言う。ユーリはなんとなく気持ちがわからないでもないと思いつつ、口を挟まなかった。アレクシスを上目遣いに見る。なんとも表現しづらい顔をして、目を細くしている。不快ではなさそうだけれど、どこか気持ちのやり場がないような、ーー。

「4日後から、西側に行くんだろ?」

 そう尋ねると、アレクシスはそうだなと面倒くさそうに言って、肩を竦めた。

「おまえ、なにか企んでいやがるな?」

「べつに。仮定の話。間違った情報なら困るから、伝えていないだけ」

 そう言って、ユーリが意地悪く首を斜めに傾ける。

「知りたい?」

「ま、大方の見当はつく。ドン・ガルニエたちの行方が分からない。向こうに潜伏しているか、西側になにかを仕掛けているか」

「そ。だから俺を連れて行ったほうがいいよ。じゃなきゃ死ぬほど後悔する」

 人懐っこく笑いながら言うと、アレクシスはははーんとなにかに気付いたように目を細くして片眉を跳ね上げた。

「だから俺を呼び出したのか、色仕掛けでもして『西側の探索チームにSig.オルヴェを加えろ』と指示を出させるために?」

 無鉄砲が過ぎるだろうとアレクシスが笑う。ユーリは平然とした顔で軽く両手を広げた。

「溜まってんのかなって」

 ニヤリと笑いながら言う。

「ほんっと、懲りねえ人だな。そう言ってドン・クリステンを誑かした結果、こないだ抱き潰されて大変な目に遭ったんだろ?」

「あれは二コラを煽ったから。ドン・クリステンだけならああはならなかった」

 ふうんとアレクシスが意地悪そうに目を細くする。

「ミクシアはスラム街以外の娼館を取り締まられたらしいし、だから気軽に遊びたい上流階級や貴族は、盛んにパーティーをして相手を見つけるんだって。
 オレガノの軍人にはそういうの無縁っぽいじゃん。一部女性隊員もいるみたいだけど、彼女たちはそういう対象じゃないだろ?」

「あー……、べべのところのティナとマリカとナタか。あれに手ぇ出せんわ、殺される。ミクシアと違って、オレガノは女性のほうが権利が上だったりする部分があるし、あの三人に手ぇ出そうものなら、上官様が怖くてなあ」

「ナタリア、だっけ? イル・セーラっぽくない、肌の色がノルマみたいな子」

「ティナ以外は海に流れ着いた子たちだ。時々船が難破するし、そうして流れ着いた人たちがオレガノやオレガノ市外の村々に住み付いたりもする。マリカとナタはどこから来たのかもわからないから、種族も不明なんだ。べべの隊はそういった子たちの面倒も見ている」

 へえと感心する。猟奇的なことばかりしか言わないから、人心を理解できないと思っていたと冗談めかして言うと、アレクシスは真顔でわかっていないと思うぞと首を横に振った。

 そういう習慣がついたのは、ベアトリスの前任だったジュリオという部隊長が始めた慈善事業が発端らしい。ベアトリスもその一人で、ジュリオには特に可愛がられていたことから数年前に部隊長に就任したのだと話してくれる。オレガノからミクシアに来ても二週に一度はオレガノに戻っていたし、戻れなくなったのはパウーラが蔓延してからだとアレクシスが言う。

「溜まってるって言ったら、ヤラせてあげようとおもってたのに」

「その手には乗らねえぞ。抱きはしても西側の調査チームへの編成は認めない」

「じゃあちゃんと通信つなげる環境を用意しといて。マジで後悔するよ」

「こええな、西側になにが待ち受けてんだか」

「さあ。俺も詳しいことはわからないけど、ろくでもないものがあるのだけは確か」

 そんな恰好でいて襲われても文句言うなよと言いながらもアレクシスの手が腿の付け根辺りまでするすると滑り降りてくる。ユーリはその手とアレクシスを交互に眺めて、微妙に疼く腹を撫でる。

「いいよ、暇だから」

 自分でパンツ脱ぐ? 脱がせたい? と、からりとした口調で尋ねると、アレクシスが白けた表情で溜息を吐いた。

「最近忙しかったし、今日はどうせ『そういう日』だったから」

 今日はドン・クリステンがやってくる日だったから、今度は言われたとおりに解しておいたが、予定が変わってこられなくなったと連絡があった。アレクシスはムカつくし、好きか嫌いかで言われると嫌いの部類に入るけれど、嫌悪感はない。だったらいいかとベッドに仰向けに寝転がった。

「あの本は、ミカの私物。俺に爆発物かなんかの指南をする見返りだと言っていたぞ」

 言われて、テーブルに置かれた数冊の本に視線をやる。本の背にステラ語ーー第二言語が見える。オレガノの医学書だ。おもしろそうなのを数冊持ってきてと頼んでいたのを、本当に持ってきてくれたらしい。ユーリはニヤリと口元に笑みを深めた。

「おまえ、マジであいつに悪い言葉教えんのやめてくれねえ?」

「は? アンナに『オレガノはいつでも喧嘩を買いますよ』なんて言ってたぞ。あんたの影響だろ」

 あの野郎と、アレクシスが眉根を寄せる。

「俺にはなんのメリットもないんすかね、Sig.オルヴェ。俺だっておもしろいこと知りたいなあ。できれば、おまえの弱点とか」

 ふはっとユーリが笑って、わざとらしく自分の腹を撫でる。

「俺の弱点? 奥は二コラ以外に抜かれたくないとか、本当は西側の仕掛けを想像するのも死ぬほど嫌だ、とか」

 仕掛けと言って、アレクシスが真剣そうな面持ちでベッドに腰を下ろした。

「まさかとは思うが、ガス発生装置の類とか、プロヴィーサ(簡易爆弾及び複数の機能をもつ装置をつなげた自家製装置のこと)的なオリジナリティー溢れるくそ装置があるかもってことか?」

 ユーリが少し体を起こして、意想外な顔をした。

「あんた、ミカエラが言っていたとおり、本当に“意外と”わかる人なんだ」

「わあ、褒めてくれてありがとう。絶対に泣かしてやるからな」

 覚悟しとけよと、アレクシスが笑いながら圧を掛けてくる。

「プロヴィーサ的なくそ装置があるとしたら、現地に赴いて、実際に目で見てみなけりゃわからねえな。まあ、Sig.カンパネッリもいるし、状況に応じた動き方をするしかない。
 ほかになにか聞き出したいことがあったから、俺を呼び出したんだろ?」

 諜報部隊舐めんなよと、アレクシスが言う。ユーリは挑戦的な笑みを浮かべたまま、軽く肩を竦めた。

「オレガノって、どこまで掴んでる? 例えば、キアーラの生死に関する問題とか、バックになにが絡んでいるか、とか」

「さあな。教える義理はねえよ。ただ」

「ただ?」

 ユーリが問い返すと、アレクシスがどこか不満げな表情を浮かべた。

「おまえの兄上を殺そうとしたのがじつはヴァシオじゃなかった、ってことくらいは教えてやろう」

「……違うの?」

「ドン・クリステンが、あいつを釈放したっつったろ? あれ、じつはあいつの衣服と私物を調べるためと、泳がせるためだったんだ。だからエリザベートちゃんがあいつの私物のにおいを徹底的に嗅いで、ベアトリスが言っていたカーマの丸薬の成分のひとつのにおいを嗅ぎ宛てた」

「それ、あいつが作っていたからとか……じゃなく?」

「おまえが知ってっかは知らんけど、シレンツィオによる自白効果は“万能”ではなく、ちょっとした細工をしてやると“指示主に都合のいい自白”をさせることができる。フィッチに伝わる技術のひとつで、『精神操作』ってのがあってな」

 ふうんと興味ありげに言って、笑みを深める。ユーリはそのままごろんとベッドに仰向けになった。

「大体わかった。やっぱり西側にはユリウスが絡んだ装置が仕掛けられているって証拠だね」

「おまえ、べべかミカからなんか聞いたのか?」

「なにも。俺だったらある程度事がうまく運んだら、『すべてを知っている邪魔者』を真っ先に始末する。自分が仕掛けた装置ってことは、仕掛けた側はいつ、どうなるのかの恐怖も知っている。それを味わわせたら、大体の人間は“本当のことをしゃべる”」

 アレクシスが驚いたような顔をしたら、すぐに白けた表情を浮かべて鼻で笑った。

「ダブルトラップってことか。そりゃあかわいそうに。同族を裏切ると、いざって時に誰も守ってくれなくなる」

「守ってほしいなんて、思ってないんじゃないのかな。俺には、なんとなくだけど、ユリウスはわかってやっている部分がある気がする」

 本当になんとなくだけれど。アレクシスがなるほどと言って不敵に笑う。

「べべも似たようなことを言っていた。あいつの勘は当たる。だから西側の土壌調査を急がせた」

「急がせた? オレガノ軍が?」

「ミカが黙っていろって言っていたから、こっちもミクシア政府に突っ込まなかったんだけどさ。
 あんまりにも動いてくれないから、どうしてくれようかと思っていたら、ドン・クリステンが『Sig.オルヴェに対するヴェリタの使用と、フィッチのなんとか卿との関わり』を引き合いに出してそれはもう楽しい楽しい尋問大会をしていたから、こっちもSig.naディアンジェロとミカとの“婚姻”のことを引き合いに出して、『オレガノにとっては次期王妃となる可能性のある女性の救出を放置しているということは、彼女に身になにかあった場合にオレガノが敵に回る』旨を優しく優しく説いてきてさしあげましたよ」

 にこやかな笑みを浮かべて、アレクシス。絶対嘘だろと白けた視線を向ける。

「そりゃああちらさんがかわいそうだったなァ。あんたと、ドン・クリステンなんかに凄まれたら、嫌でも首を縦に振るしかねえわ」

「だから西側の調査は取り付けた。それでミカが不機嫌なんだ。軋轢を生むから言わないでおいてくれってずっと言っていたしな。
 でもそうでもしないと、彼女も手遅れになる可能性がある。怪我をしているのかそうでないのか、無事なのかすら未だにわからないということは、ここと同じく”固有領地”に連れ込まれている可能性が高い。ま、それなりの地位の奴が絡んでいるってことだな」

 なるほどと言って、ユーリが悪戯っぽく笑ってみせた。

「じゃあSig.エーベルヴァイン、お詫びとお礼と、それから報酬を兼ねて、ヤラせてあげる」

 「億は抜かないでね」と、人を食ったような笑みの奥に色っぽさを漂わせて、ユーリが片目を細めていう。アレクシスはどことなく釈然としない表情で、ガシガシと頭を掻いた。

「腹の立つ言い方だな」

 アレクシスの手が引いていく。ユーリはその手の動きを眺めて、軽く肩を竦めた。

「しないならそれでもいい、寝るから電気消して」

「誰もしないなんて言ってないだろうが」

 せっかちなんだよと揶揄される。ミカは? と尋ねられ、ドン・フィオーレと一緒に市街に戻った旨を伝えると、アレクシスはなにか考え込むように視線をさまよわせていたが、まあいいかと言って上着を脱いだ。

 東側のスラムで一度ミカエラに突き飛ばされてアレクシスに抱き留められた時に思ったけれど、やはりかなり筋肉質だ。二コラも割と鍛えているほうだけれど、アレクシスは着やせするタイプなのか胸筋がすごい。オレガノは戦争をしていないと言っていた割にはいくつもの傷がある。古傷だけれど手術痕ではない。ブーツを脱いでベッドに上がってくるアレクシスを見て、ユーリは満足げに口元をゆがめた。

「じっくり見る趣味でもあんの?」

 暗に電気を消さないのかと言いたかっただけだが、アレクシスは楽しそうに目を細くした。

「案外みられるの好きだろ?」

「まあ、嫌いじゃない。商品だったし、あいつら金さえもらえたらこっちにはなんでもさせていたからなァ。衆人環視の中で派手に抱かれたことも度々あったから、べつに」

 気にすることはないと言おうとしたが、それはアレクシスの手で塞がれた。居心地の悪そうな顔ではない。あからさまな嫌悪を含む顔だ。

「おまえは気にしていないのかもしれないけど、商品だったとか、奴隷だったとか言うな。こっちが嫌なんだ」

 蔑むような目ではなくて、同族がそういう目に遭っていたことを知らずに過ごしてきたことへの罪悪感を懐いているような、そんな感情が読み取れる。ユーリは鼻で笑ってアレクシスの手をずらした。

「そういうこと言われたら萎える?」

 ノルマは大体興奮すんだけどと笑いながら言ったら、口を塞いでいた手で首を触られた。びくりと大袈裟なほど体が跳ねる。ユーリ自身も驚いた。アレクシスが訳知り顔でその手を首元から離し、するするとローブを開いていく。

「まあ、“慣れ”なんてのは所詮自分自身への言い聞かせと刷り込みでしかない。そういう状況から離れたら、『なにもされないのが当たり前』になる。
 4年前までは日常茶飯事に犯されていても、奴隷解放されたあとは頻度が減ったはず。最近では、少なくともスラムに降りなくなってからは、おまえを無理やり抱こうとする相手はいなかったろ」

「いや、あんた普通に勝手に触ったじゃん」

「そうだけど。ノルマは相手をレイプするときに首を絞めながらやるやつが多い。だからおまえも首元を触れられるのは苦手だろ。だからいつもローブもきっちり閉めないし、シャツのボタンも開けている」

 言われて、ユーリは不快そうに眉を顰めた。

「ねえ、それいま必要な会話?」

 やらないんなら電気消してと言おうとして、アレクシスが憐憫の情を顔に乗せているのが分かった。いつもの表情とは違う。そう気づいて、わざとアレクシスの腰に膝を擦りつける。

「なに、その顔? 見下されているみたいで腹立つんだけど」

「そうじゃない。俺は逃げられたのに、おまえは逃げられなかったんだなと思っただけだ」

 どういうこと? と尋ねたけれど、アレクシスの指が胸元を這ったせいでユーリの肩が跳ねた。詰まるような息をあげ、アレクシスを見上げる。さっきの表情は何だったのかと思うほどじとりとした欲に塗れた視線を向けられた。

「胸が弱いって、Sig.カンパネッリから聞いた」

 にやりとアレクシスが笑う。どんな会話してんだとアレクシスの腰を蹴ったが、すぐに胸をついばまれ、ユーリは声をひっくり返した。そんな声が上がるとは思わなくて、口元を塞ぐ。アレクシスも驚いた様子だったが、すぐに胸元で笑って愛撫を再開する。熱を帯びた息があたってくすぐったい。そこで笑うなと文句を言っても、上擦ったそれでは文句とも注文ともつかない声色で、逆にアレクシスに笑われた。

「セックスの時もケンカ腰なのかよ? Sig.カンパネッリもかわいそうに」

 言い終えると同時に乳首を甘噛みされて、んっと息が詰まるような声が上がった。どんどん体温が熱くなるのを感じて、自分の変化に戸惑いすら覚える。たかが胸をいじられるくらいでここまで熱が高まることはなかった。もしかしてなにか盛られたんだろうかとすら思いながらアレクシスを睨むと、腰上げてと指で胸をあやすようにいじりながら言われる。視線を逸らして応じずにいると、ぶはっと笑う声がした。

「かわいいな、おまえ。さっきまであれほど主導権握る気満々だったくせに」

 Sig.カンパネッリの名前を出されて興奮したのか? と問われ、苛立ちまぎれにアレクシスの腰を膝で蹴った。

「二コラの名前を出すなっ」

「Sig.カンパネッリはどう触る? 同じようにしてやろうか?」

 自分の顔が赤くなるのを感じて、ユーリは視線を逸らしたままでアレクシスの身体を押し返した。

「やっぱダメ、やめるっ。こんなときに二コラの名前出すなんて、最低っ」

「まあそう言うなよ。よくしてやるから」

 言いながらアレクシスが少し体を起こし、ユーリの下着に手を掛ける。ユーリは腰を浮かすこともせずにいたが、簡単に身体を持ち上げられてするすると下着を下げられる。アレクシスにはまだ足と胸にしか触れられていないというのに、やたらと腹が疼くことに気付いて、ユーリは両手で顔を覆い隠した。

「上司そっくりの人間を抱けるなんて雑食すぎるだろっ」

 敢えて萎えるようなことを言おうとしたというのに、アレクシスはミカと違って興奮するって言ったろと笑う。生地が肌を擦れる感覚すら熱に変わり、ユーリは自分の身体に起きている変化に戸惑って、『止める』という行為をすっかり忘れていた。なされるがままに下着を脱がされる。アレクシスが満足げにユーリの足を開いて間に割り入ってくるのがわかる。両脇に足を抱えられ、ユーリは顔を覆っている指の隙間からアレクシスの様子を覗き見た。

 挑発的というよりは愛おしそうな表情で見つめられる。ベッドサイドのチェストにドン・クリステンが置いて行ったローションが入っている。そう伝えると、アレクシスは了解と言ってそれを手に取った。ぐちゅぐちゅと手に馴染ませ、程よい温度にしてからユーリの秘孔に指を宛がう。前回もそう思ったが、意外にも性急に事を進めようとしない。慎重にユーリの後孔を解すようにくるくると指で刺激をされる。

「解してるから、もう入る」

 あんまり恋人同士みたいな抱き方するなよとけん制したが、アレクシスはどうしようかなあと軽口を叩きながらユーリのなかに少しずつ指を埋めていく。ドン・クリステンのでかいものを受け入れるのだ。割と入念に解しているけれど、彼もまたユーリが嫌がるのを知って最初からしようとする。だったら自分で解す必要なんてないだろと文句を言うと、ドン・クリステンはいまから俺に抱かれるのだと自覚が出るだろうと笑うのだ。征服欲なのかなんなのかわからないが、そう言われても断らない自分がいることも確かだ。

 アレクシスの指が割り込んでくる。ぞわぞわとした感覚が這いあがってくるのを感じながら、どこまでも潜り込んできそうな指の長さに驚いてそれを締め付ける。そういえば、こいつはやたらと手がデカかったなと内心する。

「なに興奮してんだ」

 案外ドエムだよなと笑われた。興奮してないと言おうとしたが、身体は明らかに反応しているし、さっきよりも乳首がつんと立っている。寒いだけだと話題を逸らそうとしたが、こんだけ熱いのに? と腹を触られ、びくんと肩が跳ねるほど驚いた。

「わかりやすいエロい体してんなあ」

 ここだろと言って、アレクシスがユーリの感じるところを指で押した。

「うあっ!」

 背中がしなる。急に電気が走ったような感覚に襲われ、ユーリは目を瞬かせた。前回はここまでではなかった。やっぱりなにか仕込まれたんだと思い、アレクシスを蹴る。

「その香水、媚薬の類だったりするっ?」

「バカ、んなわけねえわ」

 詰りつつもユーリの後ろを解す指の動きが大胆になっていく。粘性のあるローションに塗れた指で粘膜をこすられる感覚がやけにリアルで、心臓がどこどこ鳴っているのではないかとおもうほど昂っている。

「んっ、んんっ、っ」

 よがり声を聞かれるのが癪で、声を押し殺す。それでもアレクシスが与えてくる熱で無意識に腰が揺れ、くねるのを止められない。腹の奥がじんと熱くなる。
 
 体がヘンだとアレクシスに訴えたが、アレクシスは遠慮すんなと笑いながら指の動きを速めていく。二本目の指が潜り込んでくる。指の腹で丁寧に揉み込むように刺激していた場所をこりこりと両方の指で挟まれ、腰が浮く。

「ひあっ、っ、やだっ、待ってっ」

 逃げようと腰を浮かせるが、逃がすまいとアレクシスの指が追ってくる。限界まで腰が浮き、逃げようとする自分の意思とは裏腹に、そこに刺激が欲しくてゆらゆらと誘うように腰が揺れる。アレクシスもそれを分かっているかのように後ろを刺激してきて、ユーリはちいさくよがって達した。びくびくと体が痙攣する。なにが起きているのか全く理解が及ばない。

「マジでっ、ナニっ?」

 腹がヘンと疼く場所を片手で押さえたが、奥からじわじわとまるで生き物のように熱が侵食してくる。わけがわからず快感に流され、はあはあと息を荒らげるユーリをよそに、アレクシスがユーリの身体を反転させた。図らずも胸がシーツに擦れて腰がしなる。それを挿入しやすいように腰を上げたと取られたのか、アレクシスが後ろで笑う声がした。

「期待しすぎだろ、Sig.オルヴェ」

 アレクシスの指が後孔に侵入する。ぬるぬるとした感触と共に指を前後され、同時に固くなりつつある前も刺激される。そっちはいいと文句を言ったが、アレクシスは笑うだけだ。

「丁寧にされるのが恥ずかしいとは思わず、当たり前だと刷り込んでやりたくなる」

 セックスってそういうもんだろとアレクシスに言われ、ユーリは自分の顔が心臓になったんじゃないかと思うほど脈打ち赤くなるのを感じた。一方的なものには慣れているけれど、こうして愛でられることに慣れていないことを知っていてやってくるのだ。質が悪い。ローションの滑りを借りてアレクシスが後ろを刺激する。指で浅いところを刺激しながら会陰のあたりまで揉み込まれ、ユーリはシーツを握りこんだ。

「んんっ、っ、ぅっ、っ」

 前は枕のおかげで喘ぐ声を押し込めたというのに、自然と漏れ出てくる。もう少しでイキそうだというところで指を抜かれ、ユーリは物欲しそうに振り返った。アレクシスが足元に座り、とんとんと自分の股間を指で叩く。ズボンの中で張り詰めて形がはっきりとわかりそうなほどのそれを見て、ユーリはつばを飲み込んだ。

 やっぱりなにかがおかしいと思いつつも、言われたとおりに体の向きを変えてアレクシスのベルトのバックルを外す。トップボタンを外してズボンのファスナーを下ろすと、衣服の生地を一枚剥いだだけだというのに熱気が伝わってくるような高ぶりを感じて、ドン・クリステンがなかなか触れない場所がじわりと熱を帯びて疼きはじめる。

「エロい表情するなあ。ミカはイク時に少し甘く鳴くくらいで、よく知らないんだよな。ほとんど後ろからだし」

「はっ、ぁ、っ。どういう関係なんだよっ?」

「だから前にも言ったろ、悪い虫がつかないように教えたことが裏目に出ただけ」

「はあっ?」

「ここは俺か、医者か、配偶者にしか触らせちゃダメって教えたら、律儀に守ってるんだ」

 かわいいだろとアレクシスが笑う。

「それって自分でろくにオナニーできないって言ってたやつ?」

「そうそう。こっちに来る前の話だけど、俺にされ慣れたせいで、自分じゃ感覚がよくわからないって泣きつかれたことがあってさ。責任感じてホイホイ流されて、いまに至る」

「未だにっ!?」

「あー、でも、さすがに既婚者には触らないって言っておいたから、たぶん時々やたらと狂暴なのは、単にイラついているだけだと思う」

 最低とユーリがアレクシスを詰る。下着のゴム部分をずり下げて、アレクシスの昂ったものを解放する。はあっと色っぽい溜息を吐いて、質量のあるそれをためらいなく掴むと、アレクシスが息を詰めてユーリの頬に手を触れた。

「明け透けだな」

「悪いか?」

「貶してねえだろ、ケンカ腰になるなよ」

 じゃあ黙ってろと言って、アレクシスのペニスを頬張る。かなり質量のあるそれは口に入りきらないほどで、喉を開いて飲み込もうとするが無理そうだ。一度口から出して、唾液に塗れたそれを扱く。ドン・クリステンほどではないけれど、かなりデカい。扱くたびに固くなり、血管が浮き出ていく様を見て、ユーリはごくりと喉を鳴らした。よこしまな考えがよぎる。あまり気にしたことがなかったけれど、これに突かれるのだと思うと腹の奥が疼く。

「おいおい、想像しただけでトロけんのかよ?」

 ふえっ? と声をあげたが、自分の顔など分からない。でも思考がまとまらない。いざなわれるようにアレクシスのペニスを頬張り、固さを出すように扱く。もごもごと口の中で舌を動かしてアレクシスの先端を舐めるようにして、解放する。亀頭を唇で挟むようにして舌先で先端をせせると舌先に粘り気のある熱いものが触れた。舌先から痺れていくような快感が迫りあがってきて、腰がしなった。びくんと体が跳ねる。

「あっ、ぁっ、んっ、っふ」

 がくがくと腰が揺れる。たかが人の欲望の塊だというのに、それが伝播したかのように体が熱い。無理やり飲まされることだってあったのに、こんなふうにイキ掛けたことなんて一度もなかった。絶対になにか体に仕込んでいるんだと、アレクシスのペニスを握りこむ。

「いでででっ!」

「てめえっ、なに仕込んだっ!?」

 じゃなきゃ俺がこんなんなるわけがないとアレクシスのペニスを思いきり握りこんだが、後孔に指を潜らせていいところを探される。話を聞けと声を荒らげたが、アレクシスはどこだったかなあと暢気に言いながら、ユーリのいいところを指の腹で揉み込んだ。びりっとした快感が全身を打つような感覚に、ユーリは思わず声をひっくり返してよがった。

「うあっ、ァっ、ア!」

 やばいと言いながら腰ががくがくと痙攣するのを止められない。アレクシスのペニスを握りこむ手に力がこもったが、次から次へと与えられる刺激のせいで力が抜ける。腰を突き出すように上げてがくがくと体を痙攣させるユーリの耳に、アレクシスの意地の悪い声が聞こえた。

「おーおー、誘うようにひくひくしちゃって」

 アレクシスが立ち上がり、ユーリの後ろに回る。いま入れられたらやばいと感じてアレクシスの腕を掴んだが、余裕気に笑われた。

「どうした、ガッティーナ。お楽しみはこれからだぞ」

 言いながらアレクシスがユーリの後ろでごそごそとなにかを準備している。ぼんやりとした思考の中でそれを眺めていると、スキンを付けたペニスで尻にぴたぴたと叩いてきた。

 声を出すなよと言われ、ユーリは口を押えた。猛ったそれが肉を割入ってくる感触に、ばちばちと全身が感電したのではないかと思うほど跳ねた。張った亀頭が埋まっただけだというのに体の中から迸る熱すら快感に変わる。んんっと蕩けた声をあげたからか、アレクシスに尻を叩かれた。

「こら、声を出すな」

 言いながらもペニスを進めてくる。

「んあっ、っま、待ってっ」

 自分の声が聞いたことがないほど上擦っている。アレクシスの身体を後ろ手に押して、待ってと繰り返したが、その手を簡単に取り払われた。

「散々焦らしてくれたんだ、覚悟しろよ、ガッティーナ」

 ガツンと浅いところを突かれた。その勢いとユーリの身体が大袈裟に沿ったせいでベッドがガタンと音を立てた。シーツを噛んでいて正解だった。くぐもった声が上がる。アレクシスが一度腰を引いていく感覚すら熱っぽくて、それを追いかけるようになかがうごめくのが自分でもわかる。後ろからアレクシスの詰待ったような声がして、また浅いところを突かれた。張った亀頭でいいところを押し込まれる感覚、そしてその亀頭と自分のいいところがぴったりとはまっているんじゃないかと錯覚するほどの快感に、ユーリは声を抑えきれなかった。上擦り、鼻から抜けるような色っぽいよがり声が上がる。がたがたとベッドが音を立てるほど腰を振られるたびに声が漏れる。甘えるような自分の声は聴いたことがなかった。ねだるようなその声を聞きたくなくて両耳を塞ぐと、後ろでアレクシスが笑うのが分かった。

 大きな手で口を塞がれる。体勢が変わり、急所ごと突き破られるんじゃないかと思うほどぐんと突かれたせいで、奥の入り口を刺激され、がくがくと腰が痙攣した。うおっとアレクシスが声をあげる。

「うわっ、やばっ。あんま締めんなっ」

 もはや憎まれ口を叩く余裕すらない。口がふさがれているせいで息が苦しくて、それから逃れようと顔を振って藻掻いたが、絶対に喚くと分かっているのか外してくれそうになかった。

「はー、最高。普段憎まれ口ばっか叩いてるおまえにこんな声をあげさせていると思うと、マジで興奮するわ」

 明らかに感じ入っている声色だけれど、どこかに余裕さえ携えていて、自分と違って快感に飲まれているわけではなさそうだ。パンパンと肌がぶつかり爆ぜる音が響く。腰の動きの激しさにベッドフレームとサイドテーブルがぶつかってガタガタと音が鳴るのすら、自分がドン・クリステン以上に遠慮のない抱き方で乱されているのだと感じて声が抑えられない。がくがくと体が震える。

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俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

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