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リリー
しおりを挟むどうして、そんな顔するんですか?貴方は悪くないんです。私なんかのために、謝らないで下さい。
私は、貴方に会った時から幸せでした。
でも多分、一番幸せなのは。
貴方の腕に抱かれている、きっと今。
…ああでも、もう貴方と会えないのなら。
もう二度と貴方と話せないなら。
もう二度と名前を呼んで貰えないなら。
自分でもわかってしまう。これが、最後だと。
だからこそ、せめて貴方に──
***
初めて会ったのは、貴方が私を助けてくれたとき。
昔は裕福だったけど、両親が事故で死んでしまって、そしたら叔父叔母に家を追い出されてしまった。ついさっきまで裕福だった貴族が普通に生活出来るわけなく、一人になった私は誘拐され、奴隷商人に売り飛ばされた。どうやら私は人より外見が良いらしく、高値で売れたらしい。
そしてすぐに私は、貴族に買い取られることになった。その貴族は父と同じくらいの年のようでニヤニヤと私を見てきて、私の体を触ってくるのが気持ち悪かった。私は触られたくないと抵抗するけど、抵抗したことに貴族は怒り出し、躾と言われ殴られた。
倒れた私が、もう諦めるしかないの─?と涙を流したとき、貴方が助けに来てくれた。
私を買おうとしていた貴族と商人は捕まった。
貴方は直ぐに私に駆け寄ってきて、よく頑張った、とその大きな手で頭を撫でてくれた。
私は優しくされたのが、温もりを感じたのが、それが凄く嬉しくて、貴方の胸で大泣きしてしまった。貴方はそんな私をただ黙って背中をさすってくれていた。今では恥ずかしい思い出だけれど。
その後私は手当てを受け、貴方にお礼を言いに行った。貴方は礼なんかいい、って言うけれど、私はどうしてもお礼がしたくて貴方のそばで働きたいって言った。
ただ助けたたくさんの人の内の一人では居たくなかった。
ほぼ勢いで言ったけれど、貴方は困ったような笑顔で受け入れてくれた。
そして私は貴方の秘書となった。
仕事なんてするのは初めてで失敗ばっかりだった。でも貴方は私に、気にするなと言って何度も慰めてくれた。
そうして私は、徐々に仕事に慣れていっていった。でも、仕事に慣れていくだけじゃなくて。私は、貴方にどんどん惹かれていった。
貴方の笑顔に、貴方の優しさに、貴方の温かさに、貴方の考え込む姿にも。
言い出したらきりがない。だって貴方のそばでずっと見てきたから。
元が裕福だったとしても、私の今は平民だ。
でも貴方は貴族で、王族を護ることもある、凄く強い人。
綺麗な女の人に言い寄られている所を何度も見た。
貴方は私にとって、憧れで、でも凄く遠くて。貴方に私なんか相応しくない。だからこの想いを心の奥に引き留めて、蓋をして、ずっと側で仕えようと思っていた。
─あの日までは。
そう。貴方は婚約した。相手はこの国の王女様。王女様は凄く美人で優しいと評判で、格好いい貴方とお似合いだった。
二人は実は、昔から知り合いだったらしい。王女様は昔から貴方のことを想っていて、貴方も王女様には素を見せるような、そんな関係だと。
王女と騎士の、秘められた恋のお話。みんなその話題で持ちきりだった。
貴方が誰とも婚約しないなんて、そんなことあるわけなくて。
貴方の姿を見るだけで、嬉しくなった気持ちが嘘のように、胸がズキズキと痛かった。
王女様と一緒にいる所を見ると、もっとずっと痛かった。胸が締め付けられて、苦しかった。
誰かが、お似合いだって噂するのも、辛くて、辛くて、
耐えきれなかった。
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