はらぺこあむち

いかゆう

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あむちと唐揚げ

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「ひより~ん! お昼一緒に食べよ~」

 お昼休みに差し掛かったころ、親友のあむちが私の下に駆け寄ってくる。
 よほどご飯の時間を待ち望んでいたのか、口の端からはよだれがこぼれている。

「いよ~。机くっつけよっか」

 私は机の上に広がる教科書を畳むと、手近な誰もいない机をお借りしてつなぎ合わせる。
 早く食べようとばかり、あむちもせかせか動く。犬みたい。

「あむち、もしかして今日もそんなに食べるの? 体重とか大丈夫?」

 あむちは手に持っていた風呂敷を開けると、五段にもなる重箱を机に並べた。
 普通何人かで食べるものでしょ、それ。
 昨日も確か菓子パンを50個近く食べていたっけ。
 そんなに食べてよくデラックスにならないよね、ほんと。
 
「いいのいいの~。 私、太らない体質だから!」

 そういう人いるよね。私はこんなに努力してこの体型維持してるってのに。
 私は自分のスラリとしたボディに手を当てて、今朝のランニングの成果を噛み締める。
 む、少しお肉ついてきたかもしれない。
 昨日の夜中に食べてしまったシュークリームめ、よくもやってくれたな。
 今日は夜もランニングしなきゃだな……。

「今日は今日は~……おぉ! 唐揚げだぁ!」

 あむちは卓上の重箱のうち四つを開けると、目の前の御馳走に目を輝かせた。
 五段あるお弁当のうち、四段にはすべて唐揚げが入っていた。
 なんで全部唐揚げ? お米は? お野菜は?

「最後の一個は開けないの?」
「ちっちっち。デザートは最後に取っておくものだよ、ひよそん君」

 指を左右に振ってドヤ顔をするあむ。
 そんなワトソン君みたいなノリで言われても……。
 よだれの滝をつくるあむちは、満面の笑みで両手を合わせた。

「いっただっきまぁす!」

 あむちはパクパクと、重箱いっぱいに敷き詰められた唐揚げの山をものすごいスピードで平らげていく。
 醤油の下味が十分に染み込んでいるであろう焦げ茶色のそれを、カリカリと音を立てて幸せそうに頬張っている。
 ごくり、おいしそう……。
 そんな光景を見てると、サラダと少量の鳥胸肉しか入っていないお弁当じゃ満足できなかった私のおなかが声を上げてしまう。

「ねぇあむち。ちょっと頂戴」
「むーダメなのぉ! ひよりんのお弁当と交換だったらいいよぉ」
「えー、お重一箱と交換?」
「唐揚げ一個と交換」
「全然等価じゃない⁉」

 あまりの豪胆さに思わず私は目を剥いた。
 かなりおいしそうな唐揚げではあるが、流石にお弁当一個と交換は午後の私が空腹で死ぬ。
 喉から手が出る思いを断ち切って、私は自分のお弁当を大事に抱えた。

「えー私にとってはおんなじ価値なのにぃ……」

 ぶー、ぶーと不満を嘆くあむち。

 初めて出会った頃から、あむちはかなりの大食漢だった。
 高校一年の頃から同じクラスで、そのときからかなり大食いな子だなとは思ったが、二年になる現在はその量が指数関数的に上昇している。
 普通の弁当箱が二個、三個と増えていく様には心底驚かされた。

 まあ、それでいて太ってないというのは本当にすごいのだが。
 
 私はちらりと、制服がはち切れそうなほど膨らんだあむちのおなかを見た。
 その程よく肉付きのいいおなかはクラスの男子からの視線もよく集めている。
 健康的で、安産型で。なにより妊婦のように丸くなった同級生女子の体は、同性の私が見ても正直エロいと思う。おへそ出てるし。

「もぅ、しょうがないなぁ。はい、一個だけならタダでいいよ」

 私の視線が唐揚げを狙っていると勘違いしたのか、あむちは重箱から唐揚げを一つ摘まむと私の目の前に献上する。
 香ばしい油の香りが鼻腔をくすぐった。

「はい、あーん」
「あーん」

 咄嗟に目の前に差し出されたものを口に頬張る。
 一口噛むと、中から鶏の旨味がスープとなって溢れ出してくる。

「どう、おいし?」
「うみゃい」

 さすが、あむちのお母さんの手料理だ。これだけのクオリティをオールウェイズ出してくれるなんて、あむちは感謝した方がいい。
 私も、この世のすべての食材に感謝したい気分になった。
 お母様も、結婚しましょう。

「そういえば、毎回これだけの量作ってくれるなんてすごいね。お金めっちゃかかりそう」
「まぁねー、ひよりんが養ってくれてもいいんだよ?」
「っ」
 
 上目遣いで唇に指を添えるそのしぐさに、思わずドキッとしてしまった。
 はやる鼓動を押さえつけ、この気持ちを押し隠す。
 そしてなんとなく、へらへらとにやけるあむちが癪に障ったので仕返しがしたくなった。
 私はあむちの顎をクイッと軽く持ち上げた。

「あむち、あんた可愛いんだからそういうこと言っちゃ好きになっちゃうよ?」

 自らも照れてしまいそうな、そんな気障なセリフを吐く。
 しかし、当のあむちは照れる様子もなく、近づけた私の指を咥えた。

「やたーひよりんゲットー! おなかいっぱい食べさせてくださいー!」
「痛い痛い、離せ」

 ガジガジと私の指を噛むあむちを引き剥がすと、私は残っていた自分のお弁当を食べきった。
 あむちも負けじと四つ目の重箱を空にする。

「そういえば、ひよりん、二郎系食べたことある?」
「二郎てラーメンの? ないけど」
「じゃあじゃあ、今日の放課後行ってみない? 塾行く前いつもおなか空いちゃってー」
「あーまあ暇だしいいよ」

 あれ、そういえばあれってかなりのカロリーだったような……。
 夜ごはん抜きにすれば大丈夫か?

「やたあ。ごちそうさまでした」
「あれ、あむち、デザートは?」

 私は机の角に忘れ去られた五つ目の重箱を指さして指摘する。

「あっ忘れてた! 大事な大事なデザートちゃんごめんよぉ」

 あむちは、まるで愛犬でも撫でるかのように重箱に頬をすりすりさせる。
 いったい何が入っているのか。
 
 ごくり。

 あむちは最後の一箱を開ける。

「塩唐揚げちゃんです」
「また唐揚げか」
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