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毀れるこころ
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拍手が上がった。
集まった貴族たちが祝福の言葉を口にする。
騎士団の隊員たちは、ある者は呆然と、ある者は気の毒そうにメイヴィスを見ている。
「皆さま、このお茶会はアレク様とわたし、イーデンス伯とメイヴィス様の婚約が成ったお祝いにいたしましょう!」
フローリアの良く通る声が響き渡った。
「そうだな! フローリアはよく気が付いてくれる」
「殿下、お気にせずに」
フローリアは隣に立つアレクサンドルに柔らかな体を押し付けた。
「淑女として教育を受けた身なら当然ですわ」
フローリアはアイスブルーの瞳を眇めてメイヴィスを見やる。
手に入れたモノを自慢したくて仕方がない。という顔だ。
呆然として、体に力が入らないメイヴィスをイーデンスは抱き寄せた。
腰や手首に自分の手を軽く添えてエスコートしているように見えるが、実際は痕が残るほど力を込めてメイヴィスを拘束している。
「お放しください。イーデンス様」
頭の中は滅茶苦茶だった。
それを隠そうと毅然と言い放つ。
「わたくしは殿下の言うことを何一つ了承しておりません」
「逃がしませんよ。メイヴィス嬢」
イーデンスの呼吸は荒い。
「剣術大会で散々私を下してくれた男の妹を、好きにできるんですからな」
そんな二人を、周囲の者は微笑んで見つめる。
「もう仲良くなったようだな。睦まじいことだ」
「剣ばかり握っている方は、殿方の扱いも上手くてらっしゃるのね」
アレクサンドルもフローリアも笑っていた。
宮廷楽士が曲を奏で始める。
バラッド王国に古くから伝わる結婚を祝う歌だ。
数分前の魔族の襲撃など夢だったかのように、和やかな空気のガーデンパーティが再開された。
メイヴィスの耳元に口を近づけてイーデンスは続ける。
「技術で魔族を蹴散らせれば、騎士など無用の長物ですよ。貴女の兄上も父上もそうだった。時代が変われば役立たずだ」
一瞬呼吸が止まった。
メイヴィスは否定の言葉を口にしようとした。
婚約破棄など了承しないと、強く言おうとした。
その目に飛び込んできたのは。
貴族たちが笑い、冷やかしまじりの喝采を上げる。
使用人たちが摘み取った花を空に向かってまき散らす。
花びらが舞い散る。
その中心で。
抱き合ってキスを交わす、アレクサンドルとフローリアだった。
何かが砕け散る音が、メイヴィスには確かに聞こえた。
イーデンス伯の手のひらが、メイヴィスの身体を撫でまわし始める。
生臭い吐息が、メイヴィスの顔にかかった。
「乙女は大人しいのが一番ですぞ。その無粋な服も、すぐに脱がしてあげましょう」
イーデンスは嫌らしい笑みを浮かべながら、メイヴィスのお尻を
鷲掴もうとして―――
「汚い手で触らないで」
「ぎゃああああああああ⁉」
不埒な行為に及ぼうとした手は、手首から切断された。
鮮血が吹き出す。
メイヴィスは一人芝生に立ち尽くす。
その全身から真っ黒な気体が噴き上がった。
集まった貴族たちが祝福の言葉を口にする。
騎士団の隊員たちは、ある者は呆然と、ある者は気の毒そうにメイヴィスを見ている。
「皆さま、このお茶会はアレク様とわたし、イーデンス伯とメイヴィス様の婚約が成ったお祝いにいたしましょう!」
フローリアの良く通る声が響き渡った。
「そうだな! フローリアはよく気が付いてくれる」
「殿下、お気にせずに」
フローリアは隣に立つアレクサンドルに柔らかな体を押し付けた。
「淑女として教育を受けた身なら当然ですわ」
フローリアはアイスブルーの瞳を眇めてメイヴィスを見やる。
手に入れたモノを自慢したくて仕方がない。という顔だ。
呆然として、体に力が入らないメイヴィスをイーデンスは抱き寄せた。
腰や手首に自分の手を軽く添えてエスコートしているように見えるが、実際は痕が残るほど力を込めてメイヴィスを拘束している。
「お放しください。イーデンス様」
頭の中は滅茶苦茶だった。
それを隠そうと毅然と言い放つ。
「わたくしは殿下の言うことを何一つ了承しておりません」
「逃がしませんよ。メイヴィス嬢」
イーデンスの呼吸は荒い。
「剣術大会で散々私を下してくれた男の妹を、好きにできるんですからな」
そんな二人を、周囲の者は微笑んで見つめる。
「もう仲良くなったようだな。睦まじいことだ」
「剣ばかり握っている方は、殿方の扱いも上手くてらっしゃるのね」
アレクサンドルもフローリアも笑っていた。
宮廷楽士が曲を奏で始める。
バラッド王国に古くから伝わる結婚を祝う歌だ。
数分前の魔族の襲撃など夢だったかのように、和やかな空気のガーデンパーティが再開された。
メイヴィスの耳元に口を近づけてイーデンスは続ける。
「技術で魔族を蹴散らせれば、騎士など無用の長物ですよ。貴女の兄上も父上もそうだった。時代が変われば役立たずだ」
一瞬呼吸が止まった。
メイヴィスは否定の言葉を口にしようとした。
婚約破棄など了承しないと、強く言おうとした。
その目に飛び込んできたのは。
貴族たちが笑い、冷やかしまじりの喝采を上げる。
使用人たちが摘み取った花を空に向かってまき散らす。
花びらが舞い散る。
その中心で。
抱き合ってキスを交わす、アレクサンドルとフローリアだった。
何かが砕け散る音が、メイヴィスには確かに聞こえた。
イーデンス伯の手のひらが、メイヴィスの身体を撫でまわし始める。
生臭い吐息が、メイヴィスの顔にかかった。
「乙女は大人しいのが一番ですぞ。その無粋な服も、すぐに脱がしてあげましょう」
イーデンスは嫌らしい笑みを浮かべながら、メイヴィスのお尻を
鷲掴もうとして―――
「汚い手で触らないで」
「ぎゃああああああああ⁉」
不埒な行為に及ぼうとした手は、手首から切断された。
鮮血が吹き出す。
メイヴィスは一人芝生に立ち尽くす。
その全身から真っ黒な気体が噴き上がった。
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