騎士姫メイヴィスは魔に堕ちることにした

葉人(ようと)

文字の大きさ
13 / 15

そして彼女は魔に堕ちた

しおりを挟む
 漆黒に輝く鱗。

空が暗くなったのは、その生き物が蝙蝠のような翼を広げたからだ。

一本一本が騎士の剣ほど長く鋭い牙、放射状に延びた何本もの角。

王城を覆い隠すほどの巨体。

真っ黒いドラゴンがそこにいた。

『メイヴィス、何度もお前を呼んだ』
地鳴りのような声が響き渡る。


『今日こそ我が元に来い。姑息な者どもなど、お前にはふさわしくない』

メイヴィスは無言でドラゴンの巨体を見上げた。

馬を数頭まとめて握りつぶせそうな巨大な手がメイヴィスに伸びてくる。

周囲の騎士や貴族たちの声もメイヴィスは聞かなかった。



「許してくれ!メイヴィス!キミを愛してるよ!僕はこの淫らな女に誘惑されたんだ!」

「何よアレクサンドル! 散々人の胸やお尻を触っておいて!」

「バラッド国の王子じゃなきゃ、このわたしがアンタみたいなダサい男に近付くもんですか!」

「なんだとぉ! お前の国の兵器だって役立たずじゃないか!」

「わたしはゼプト帝国の皇子様やリガート国の大臣とも親しいのよ! すぐに助けてくださるわっ!」

「やっぱりお前は淫らな女だ! この王国を堕落させるために来たんだな!」

「バッカみたい! 婚約破棄とか騎士団解散とか言い出したのは自分じゃない!」

先ほどまで祝福されていた二人は罵り合いを止めない。

貴族たちが魔族に襲われ、騎士団が必死に応戦するのも見えていないようだ。

「・・・メイヴィスは、アレクサンドル様をお慕いしていました」

「だったら早く戻ってくれ‼ はやくっ!たすけてぇ!」





「今はもう、貴方の何処が好きだったのか思い出せません」


醜い罵り合いを続ける王子と王女の前で
 

漆黒の竜はメイヴィスをその手に抱いたまま消えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

婚約破棄されたから政府閉鎖します

常野夏子
恋愛
王族も無視できない影響力を持つ名門貴族ラーヴェル侯爵に婚約破棄された王女リシェル。 彼女は王国の政務をすべて停止することにした。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

醜い私は妹の恋人に騙され恥をかかされたので、好きな人と旅立つことにしました

つばめ
恋愛
幼い頃に妹により火傷をおわされた私はとても醜い。だから両親は妹ばかりをかわいがってきた。伯爵家の長女だけれど、こんな私に婿は来てくれないと思い、領地運営を手伝っている。 けれど婚約者を見つけるデェビュタントに参加できるのは今年が最後。どうしようか迷っていると、公爵家の次男の男性と出会い、火傷痕なんて気にしないで参加しようと誘われる。思い切って参加すると、その男性はなんと妹をエスコートしてきて……どうやら妹の恋人だったらしく、周りからお前ごときが略奪できると思ったのかと責められる。 会場から逃げ出し失意のどん底の私は、当てもなく王都をさ迷った。ぼろぼろになり路地裏にうずくまっていると、小さい頃に虐げられていたのをかばってくれた、商家の男性が現れて……

私の夫は妹の元婚約者

彼方
恋愛
私の夫ミラーは、かつて妹マリッサの婚約者だった。 そんなミラーとの日々は穏やかで、幸せなもののはずだった。 けれどマリッサは、どこか意味ありげな態度で私に言葉を投げかけてくる。 「ミラーさんには、もっと活発な女性の方が合うんじゃない?」 挑発ともとれるその言動に、心がざわつく。けれど私も負けていられない。 最近、彼女が婚約者以外の男性と一緒にいたことをそっと伝えると、マリッサは少しだけ表情を揺らした。 それでもお互い、最後には笑顔を見せ合った。 まるで何もなかったかのように。

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

ワザと醜い令嬢をしていた令嬢一家華麗に亡命する

satomi
恋愛
醜く自らに魔法をかけてケルリール王国王太子と婚約をしていた侯爵家令嬢のアメリア=キートウェル。フェルナン=ケルリール王太子から醜いという理由で婚約破棄を言い渡されました。    もう王太子は能無しですし、ケルリール王国から一家で亡命してしまう事にしちゃいます!

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

処理中です...