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侵略者編

記憶の欠片

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「そうか、だから君はあんなところにいたのか。」
と、晴稀は言った。

「はい、僕の母は死んでそれを目の当たりにしたから一部の記憶が無くなったのだと思います。」
と■■は言った。

「そうか、君は..って君って言うのはあまり僕としては呼びたくないな。何かいい名前は無いかな。」
と、晴稀は考え始めた。

「いや、いいですよ。僕はどうせ行く場所が無くて一人で生きてそのまま死んでいくんですから。」
と、■■は言うが、

「いや、それは良くない。なにせ、きみは先ほど飛行魔法を使っていただろう。あの魔法はかなりの魔力を持ていないと使えない【最上位魔法】だよ。」
と、晴稀は言った。

そのあとすぐに
「そうだ、君の名前は今日から『祐』だ。」
「..祐..」
と、口から漏れていた。
しかも、それと同時に涙も流していた。

「え、なんで僕は泣いているの?」
と、祐は思った。

「いいんだよ、泣いても。なにせ、母親も死んでしまって記憶の一部も失った君に残ったものは『感情』と一部の記憶だけなんだ。」
と、晴稀は言った。
そして、祐は泣き止んだがそのまま寝てしまった。



「..ゆ....う...祐!」
と、少し遠くからだが自分を呼ぶ声が聞こえたので目を覚ました。
しかし、辺り一面すべて水だった。
要するに、祐を360°水が囲んでいるのだ。

「これは....一体..」
と、呟いた瞬間に脳に痛みが走った..と、同時に何者かがまた自分の脳に干渉してこようとしているとすぐに理解できた。

「これは..まずい。」
と、呟き

「愛結...逃げろ!」
と、言ったが全く声が出なかった。
しかも、水に覆われているため全く外には聞こえていないと祐は理解した。
ここで、幸いなことに一輝に声をかけられ愛結は避難をしたのだ。

「よし、愛結も..逃げてくれたか...」
と、祐はいきなり頭に浮かんだ術式を唱えた。

「水爆発〈イグスト〉」
と、唱えた瞬間巨大な穴が作られた。



「よし、着いたぞ。」
と、祐は目を覚ますとそこには巨大な建物が建っていた。

「ここはなんだかわかるか?」
と、晴稀に聞かれたので

「うん、ここは覚えてる。魔導士協会の本部。」
と、祐は答えた。

「よし、これは覚えているのか。何を覚えていて、何を覚えていないのかが全くわからない。」
と、晴稀は頭を抱えた。

「それで、晴稀さんの用事ってなんですか?」
と、祐は聞いた。

「そうだった。俺はちょっと会長に用があってな。お前もついてくるか?」
と、聞かれて祐は

「うん、僕も行く。」
と、言って晴稀の後についていった。


「会長、創神です。」
と、会長室の前で晴稀はそういうと

「よく来たな、入っていいぞ。」
と、言われたので入っていく。
祐もやっとの思いで父親に会える
...そう思っていた。

「どうも、新しく会長に着任した陽神 太郎《ようしん たろう》です。」
と、名乗った。

「ちょっと、晴稀さん。前期の会長は?」
と、祐は質問をする。

「そうだね、彼は出奔したよ。」
「それっていったい?」
と、祐が聞くと

「昨日、君の住んでいた町を襲って来た集団がいただろ?」
「はい。」

「そのグループ、ダーク・ヴォラールというんだが、そのグループの総監督をしていたらしくてそのまま追放されたんだ。そして、今日から陽神さんが会長になったわけだ。」
と、言われて祐は絶望をした。

「うそだ、そんなことない!父さんは僕たちを殺そうと思っていたってこと?」
と、言うとまた昨日のように自我を乗っ取られる危険性があったが、祐はそのまま考えることを続けた。

「まさか、君は前会長の息子さんなのか?5年前子供が生まれたという事は聞いたことはあったがそれは本当だったのか。」
と、陽神は言って来た。

「でも、君はもう帰る家がないからね、いまから一つだけチャンスをあげよう。」
「なんだ、それは?」
「まあそう焦るな。」
「いいから、早くしろ。」
「わかったよ。そのチャンスとは...。」



「祐、朝ご飯が出来たわよ。」
「わかった、今行くよ。」
と、答えて神海 祐は自分の部屋を出てリビングに向かった。



「...これは、一体なんだ。僕の知らないものがどんどんと頭に流れてくる。」
と、呟いた。

すると、
「おう、やっと起きたか。」
と、声をかけて来たのは警視庁魔導士部隊隊長の炎神 一輝だ。

「ここは、一体どこ..ですか?」
と、祐は聞いた。

「まあ、そう心配するな。ここは、警視庁が管理する病院だ。」
「なるほど、と言うか僕はなんでここにいるんですか?」
と、祐が聞くと

「お前、それは本気で言っているのか?あんなにも巨大な爆発を起こしやがって。おかげで訓練は中止しないといけないし、ダーク・ヴォラールの討伐作戦も延期になったじゃねーか!」
と、一輝は言って祐の肩を揺らす。

「ところで、愛結は?」
と、祐は聞いた。
確かに愛結の姿は祐の病室の中にはなかった。

「ああ、雷神なら帰ったよ。作戦が延期になったから明日から学校に行くと言ってな。」
「そうですか。じゃあ、僕も行こうかな。」
と、祐は言ったが

「いや、それはダメだ。とういうか無理なんじゃないのか?」
「え、どうしてですか?」
「お前、自分で気づいていないのか?今は、少し時間も経ったし、魔法での治療もしたから少しはマシになった方だが、肋骨を2本も折ったんだぞ。そんな奴が歩ける訳ないだろ。」
と、言われてしまった。


祐は、学校にいけないことに気を落としていると
「ところで、お前が使ったあの〈術〉はなんだ?」
「あれはですね、とか言いたいところなんですけど、正直に言わせてもらうと覚えていないんですよ。」
と、祐は言った。

「え、それって一体どういうことだい?」
と、聞かれたので

「あの術を使ったときに突然誰かの物かを知らない記憶が流れ込んできたんです。その時に一瞬だけ見つけて使ってみたらこんなことに。」

「そうか、幸いとても大きな事故にならなかったから良しとしよう。では、また来るよ。ではお大事に。」
と、言って一輝は部屋を出て行った。
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