Ωにうまれて

認認家族

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コンコン
ノックの音が響いた。智則が咄嗟に僕の首にネックガードを巻いた。
そのまま緊張した声で応える
「はい」

「綾小路の弁護士の者です。この度の件でご挨拶をさせていただきたいのですが。」

「…………必要ありません。俺たちはもう帰ります。」

智則は鍵も開けず、ドアごしに硬い声で応えた。失礼なことだけど、それだけ用心しているって事。

「帰られてもかまいませんが、奄美さんは綾小路さんの運命です。」

「……先輩にその感覚はない。」

「奄美さんは、オーバードーズだったと聞いております。ならば、通常状態でラットになった綾小路の感覚の方が正しいと思いませんか」

智則が医師を睨んだ。医師は軽く首を振る。自分ではないよ、という事なんだろうけど……。

「奄美さん。βのご両親にβの妹さん。……津守さんにはこちらから話させていただきます」

びくりと体が震えた。まだ、半日も経っていないのにそこまで調べたのか。調べられるものなのか。

「必要ありません。津守さんには俺から話すつもりです。」

「そうですね。秋葉智則さんは色々な資産を売却して充分な現金をつくられたとうかがっております。津守さんと交渉される予定とか」

充分な現金?
高校生の智則に?
βの智則に?
どんな無理をしたのか。幾ら家が裕福でもポンと渡せる額ではない。
智則の覚悟を知る。
首輪を外してパスコードをリセットする。
「智則、手をかして…………10桁の認証コードを入力して」
扉を睨みつけている智則に小声で話しかけた。
僕の意図を察して智則が僕に見えないように入力した。再びネックガードをする。もしも、考えたくはないけれど、僕が本能につられてヒートになったとしても解除キーを知らなければネックガードは外れない。穴の開きかけたガードだけど、それでも出来る対策は講じたほうがいい。
「守るから」
智則が僕を抱きしめたあと、再びドアを睨んで言った

「津守さんには俺から話す。だから、貴方がたは必要ない」

強張った声で智則がいう。相手のリサーチ力に、智則も僕もその権力、執着を予感した。

「話になんねぇな」
割込できた低い声に震えが走った。
Ωを従わせる絶対的なモノ。

直後にドアが吹っ飛んだ。
呆然とする僕を背中に庇い、智則がいう。
「随分、粗暴なんだな。試合の時の礼儀はどこに消えたんだか。」

「運命を前にすりゃあ、誰でもこうなるさ…………来い」

びくりと体が震えた。その命令に逆らう事は出来なかった。ふらふらと智則の影から出ていく。

「先輩!待って!」

腕を掴まれて引き戻される。

「俺のモノに触るな!」

息も出来ない程の威圧を受けて、その男の弁護士が倒れた。医師も呻いているなか、智則は眉を顰めているだけだった。そして僕は……
俺のモノという言葉に体が、後が反応した。意思に反して濡れる蕾に泣きたくなる。手をのばす自分に絶望する。

「先輩はあんたのモノなんかじゃない!」
「お前のモノだとでもいうのか!」
「違う!俺のモノでもあんたのモノでもない!先輩は先輩自身のモノだ!」

僕は僕のモノ!
霧が晴れた気がした。そのまま智則に縋り付く。
「智則、ここを出よう」
そう言った直後に、シトラスの、そのくせ爽やかさもないナニカが僕を包み込んだ。
「あ……ああ……」
膝から力が抜けた。膝と言わず全身の力が抜けた。カクンと座り込む。誘引フェロモンを向けられたのだ。喉が渇き始めた。あのαが欲しくてたまらない。違う、そんな事僕は望んでいない。ああ、あそこに僕を鎮めてくれるαがいる。数分で体が熱くなるだろう。

「秋葉君!駄目だ!奄美君はこれ以上の薬に耐えられない!」
智則が抑制剤を打とうとすると、医師が止めた
「そんな!先輩」
智則声に、蕩けた頭が一瞬だけ覚醒する。
「智則、打って!僕が僕のモノだと言うなら打って」

心臓を掴まれたような衝撃を受けた。
周りが何かを言っているけど聞こえなった。

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