真実の番は執愛の枷を破却する

オリーゼ

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かたわれどき

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 ヴィクトルが来なくなって半月を越えた。
 珍しく調子が悪くなかったその日、アリスターは魔力の節約のため動力室に行って警備システムを切った。
 強盗に入られて困るようなものは置いていないし、住んでいるのは自分一人。今は魔術も使えず無力だが、殺されたところで惜しくもない命だ。正直、警備システムを起動させておくのも馬鹿馬鹿しい。
 久々に仕事らしいことをして部屋に戻ると美しい満月が見えた。
 こういうものに目が留まったのも久しぶりな気がする。
 アリスターは部屋の明かりを絞ってぼんやりと月を眺めながら、ゴーレムが置いていった味気のない食事を義務的に口に運んだ。
 食器を下げさせ、最低限の寝支度をしてたいして眠れもしないのにベッドに潜り込む。
 予想通りほんのわずか微睡んだものの、満足な睡眠をとれないまま起き出したアリスターは思い立ってサンダルを履いて庭に出た。
 外はいまだに暗く、昨日の名残の満月が西に残る彼誰刻かたわれどきだ。
 思えばこの建物を新築してからずっと引きこもっていて、まともに庭など散策したことがなかった。
 庭師が丹精していた旧居の庭と違って殺風景ではあったが、歩ける程度の手入れはされている。
 アリスターは小さく鼻を鳴らした。
 夜気を残す空気に甘い香りが混ざっていた。
 それに惹かれて庭の壁沿いを歩き、錬鉄の柵にもたれる人影を見つけた。
 どくりと心臓が強く脈打ち、犬歯が疼く。
 若い男性のようだが、肌は白く華奢だった。
 手入れされた淡い色の髪が、小さな顔の横を彩っている。
 無意識のうちに彼へ向けた足が植え込みの枯れ枝を踏みしだく。
 その音が耳に入ったのか、青年はぱちりと眼をあけた。
 その瞬間、払暁の最初の光が朝焼け色の髪と薔薇色の眼差しを輝かせた。
 刹那、先ほどほんのわずかに感じた芳香が目の前の青年の上で華開く。
「な、んで……?」
 呆然としたその声は想像よりも少し低く純朴な響きをしていた。
 アリスターは青年に覆いかぶさり、その頬を撫でてそっと唇に己のそれを重ねる。
 さらに深く唇を触れ合わせたい欲をこらえてアリスターは身を離して甘く問う。
「君の、名前は? 俺……私はアリスター。アリと呼んでほしい」
 腕の中に収めた青年から、怯えと戸惑いを感じたからだ。
 身体は魔力を持て余していた時と同じように興奮を訴えていたが、魔力を封じられているせいか、それとも彼が特別な存在だからか、その衝動よりも彼の不安を払拭したいという気持ちが先に立った。
 それになにより彼の名前を呼びたかった。
 そして同じぐらい、先ほどの心を薙がせる素朴な声で自分の名前を呼んで欲しかった。
「親からもらった名前はマークだ。アリ」
とろりと蕩けはじめた声音で青年はアリスターに名を告げた。

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