真実の番は執愛の枷を破却する

オリーゼ

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アルファの業

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 アリスターの視界を塞いでいたタイが外された時、ヴィクトルはすでにシャツとシャツガーター、ソックスガーターを身につけた姿だった。
 ぐったりとうつ伏せになって枕に身を預け、顔だけをヴィクトルの方に向け、彼がソックスをガーターに留める姿を見ていると、彼は見せつけるように爪先を伸ばしてもう片方を履いてみせる。
「ちょっとだけサービス。足はね、まだイケてるんだ」
「なんのサービスだよ」
 内心の動揺を隠して素っ気なく訊ねると冗談めかした返答が返る。
「僕のくたびれた素肌が見たかったんだろ?」
「そういうわけじゃなくて……!」
 遮るものなく繋がりたかったのだと伝えようとしたところで、椅子に引っ掛けてあったジャケットの中から耳障りな音が響いた。
「うるさいけどなにこれ? 鈴?」
「ああ、これ遠距離通話端末の呼び出し音。念話の距離を伸ばす魔道具だよ」
 発明するんじゃなかったなとぼやきながらヴィクトルはけたたましい音で存在を伝える小さな板をポケットから取り出して耳に当てた。
「あー、はい。何か用? どこにいるのかって? 別にどこでも…て、あっ。はい。さーせん。野暮用でクラレント公爵のところに来てる。うん。うん。殿下が! そりゃ大ニュースだ。あー、分かった分かった。帰るから。一旦切るよ」
 耳からそれを離して板をつついたヴィクトルは眉を顰めた。
「あーあ、お仕事できちゃった。本当に作んなきゃよかった。こんな物」
「何かあったのか?」
 アリスターの父は王弟で、アリスターも王の直系の二人のアルファ王子についで継承権三位を持っている。
 水を向けるとヴィクトルは肩をすくめた。
「王太子殿下に運命の番が見つかったんだって」
 運命の番と言いながら、ヴィクトルは口元を歪めた。
「殿下はオメガフェロモンが分からなくて、候補になりそうなオメガを後宮に集めてたんだけど。運命の番ちゃんが嫌だろうからさっさと下げ渡したいんだって。アルファって業が深いよね。発情落ち着いたとたんに寝室から命令してきたんだってさ。信じられる?」
 アリスターは長らく会っていない従兄弟を思い出しながら苦笑した。
 アルファが番に向ける愛情は様々だが、運命の番に対するそれは大抵、重くて深くて度が過ぎる。
「ヴィクの親もそうだっけ」
「そうだよ。キミのご両親もでしょ」
 貴族社会において運命の番は少なくはない。
 オメガは少なく、コミュニティは狭い。
 パーティーで招待された中で周期でもないのに突然発情したら運命の番だ。
「面倒だしリーベル殿下の発情を使って、まとめて番わせちゃえばいいか」
 ひとりごちたヴィクトルはアリスターを抱きしめた。
「ってわけで、忙しくなるからしばらく来れなくなりそう。ごめんね」
「宰相なんだ。俺なんかじゃなくて国を優先すべきだよ」
 それに対して眦に唇を落とされ名残惜しげに身を離された。
 ヴィクトルはジャケットの右ポケットに内蔵された空間魔道具から張り型やスライムの入った小瓶を取り出し、サイドテーブルの上に置いた。
「君よりも優先すべきことなんてないよ。アリスター。あ、これ、魔力が乱れたら使って。僕の形の特注品。張り型でも自分以外の形を君に使わせたくない」
「運命の番みたいな事をいうなよ」
「そうであってほしかったよ。アリ」
 ヴィクトルはジャケットの上からマントを羽織って手袋をはめると部屋を出て行った。
 その寂しげな背中を見送りながら、アリスターはヴィクトルの言葉を反芻して枕を抱きしめた。
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