明日香さんは狙われてる

米好き

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13 明日香さんは何か引っかかる

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 じわじわと汗をかいているがこれが暑さによるものだけではない気がする。
 扇真と遭遇して一緒に駅の方へ行くことになったのはいいが口下手なために話を振ることもできず、気まずい沈黙が続いている。
 扇真は特に気まずい感じもないが、はなしかけてくることもない。
 出来れば彼とは接触したくはないが、何にも話さないというのはこれはこれで辛いものが…。
「い、いい天気だね~…」
「そうですね。夏休みは帰省するんですか?」
「んー。そうだね。お盆前後に帰ろうかな」
「いいですね。今年の夏は暑くなるそうですから、都心より自然溢れるご実家に帰った方がきっと心も体も休まりますよ」
 ここだけ聞くと盛り上げ上手の気遣いのできるいい人だけど、私は聞き逃さない。なんで、私の実家が自然溢れる田舎だと知っている…。まさか実家のほうにまでついてくるなんてことないよね?
「扇くんはどうするの?」
 確認の意味も込めて聞いてみる。
「まだ考えてないです。一人暮らししてはいますけど、実家結構近くて、家族と頻繁に会っているのであまり帰省する必要を感じていないんですよね」
 そう何となく困ったように笑う顔は普通の青年だった。
「実家近いのに一人暮らししてるんだ。色々大変じゃない?」
「まぁ。でも寝起きが悪いのでなるべく大学に近いところが良かったんです。一人暮らしも勉強になりますし」
 なるほど。確かに大学生のうちに一人暮らしして色々なれておいた方が社会人になってから楽かもしれない。それは私も身を持って感じている。
「暑い…」
 聞こえるかギリギリの声量で扇誠が呟く。その声に横目でチラッと見ると顔や首もとに汗が流れている。少し長い前髪の影が顔にかかって目元が見づらいが何となく疲労のような色が浮かんでいる。これだけ暑いとほんの数分歩いただけで疲れるのも当然だ。でもなんだか…。
 そこで駅の前にあるコンビニにつく。
「明日香さん、俺の我が儘につき合ってくれてありがとうございました!」
「う、うん。あの」
「何でしょうか?」
 なんでこそで「じゃあ、さようなら」といわないのだろう。こういうところがいけないんだろうな。放っておけばいいのに。
「ちょっと待っててもらっていい?すぐだから。コンビニの雑誌コーナーにでもいて待ってて」
「?はぁ…」
 何だろうという扇誠をコンビニに入るように促して、私は弁当や飲み物が並ぶ方へ向かう。扇誠は言われたとおり雑誌コーナーの方へ向かったようだ。


「100円のお返しです。ありがとうございましたー」
 おつりを受け取ると雑誌コーナーで立ち読みをして待っている扇誠に声をかける。
「お待たせしました」
「!大丈夫ですよ。でもどうしたんですか」
 さっきまで汗ばんで赤くなっていた顔はコンビニの涼しさのおかげかだいぶ良くなっている。
「これ。受け取って」
 そういってさっき買ったものを袋ごと渡す。
「これは?」
「スポーツドリンクと経口補給水と麦茶。なんだかすごく暑そうで熱中症になるんじゃないかって不安になっちゃって…。三本は重いと思うけど家帰るまでに倒れても大変だから。ちゃんと水分とってね」
 じゃ、と言わんばかりにコンビニを飛び出す。
 何故だか暑さとは別の意味で顔が暑くなった。別にやましいことをしたわけでも、バレンタインにチョコを渡した訳でもないのに。
 扇誠は追って来なかった。

 自分のお昼を買い忘れたことに気がついたのは図書館に戻ってからだった。結果冷やし中華は諦めて学食で定食を食べた。
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