明日香さんは狙われてる

米好き

文字の大きさ
2 / 14

2 明日香さんは恐怖する

しおりを挟む
 次の日。昨晩の勇気ある行動に興奮して今までとは別の意味でほとんど寝られなかった。しかしさすがに朝の4時ごろになると睡魔がどっと押し寄せて次に目を開けたときは昼の11時間前だった。
 今日は日曜日。学校は休み。バイトも休み。これなら一日中引きこもれる。
 警戒はしつつも共有玄関の向こう側にあるポストを覗くと手紙がぎっしりと詰まっていた。ぎっしりすぎてなかなかとりだせなくて大変だったが、余りの多さに昨夜の恐怖心がぶり返す。
 手前側は近所のスーパーだの何だのの広告だが、奥側に詰まっていた手紙はルーズリーフに殴り書きしたような大きくて乱雑な字で『好きです』とかかれたものが大量に入っていた。
 ゾッとしてすぐにでと捨てたかったが、もしこのあたりにまだ潜んでいて、その前で手紙を捨てたりしたら逆鱗に触れてしまうこともありえる。私はポストの中の手紙を一通りだすとすぐに自分の部屋へと戻った。
 広告と手紙を分けて置いてみると、広告は全体の10分1程度しかなく残りは全部ルーズリーフの手紙だった。
『好きです』『ずっと見てました』 
 そんな言葉が何十枚にもかかれていた。
 その中でも比較的落ち着いた字で少し長めにかかれた紙に目が止まる。
『直接告白したら付き合ってくれますか?』
 まずい。これはまずい。
『気持ちを直接伝えずにコソコソあとを付け回して迷惑かけてくるような人とは友達にもなれません!』
 あの言葉を『直接伝えてきたら気持ちに答えてやらんこともない』と解釈したのだろう。
 かなりまずい。今までは後を付けてくるだけで襲うどころか声すらかけてきたこともないストーカーが、私の発言のせいでこんな手紙を寄越すようになってしまった。この文面からすると、コンタクトをとってくる可能性がある。どうしよう。
 あんなこと言ったけどやっぱり警察に相談するべきか。ストーカーは証拠がキッチリしてないと警察も動けないと聞いたことがある。幸いこうしてストーカーからの手紙が手元にある今なら、警察も十分対応してくれるだろう。
 プルルルルー プルルルルー
 心臓が飛び跳ねるのがわかった。体の内で血が濁流のごとく音を立てて流れているのがわからる。
 スマホの画面をみるとそこには非通知と浮かんでいた。誰だろう。母からだろうか。母は固定電話だけで携帯を持っていないから、出先から私に電話するときは今時珍しい公衆電話からかけてくる。
(お母さんならこのこと相談しよう。でも、もしストーカーなら?いや、もしかしたらただのセールスとかかもしれない。ここは出ないのがいい?もしお母さんならここで出なかったら諦めて改めて家から電話かけてくるよね)
 居留守を使うことにした私は極力電話の音が聞こえないように敷き布団の隙間にスマホを押し込んだ。
 プルルルルー プルルルルー プルルルルー プルルルルー プルルルルー プルルルルー プルルルルー プルルルルー プルルルルー
・・・長い。コールがこれでもかと言うほど長い。もしかして本当にお母さんから?何か外で事件にでも巻き込まれて、私と連絡をとりたいとか?ドラマのように誰か家族が事故にあったとか、倒れたとかですぐにきてほしいとかいう催促の電話とか?
 あまりの長さに何だかそんなドラマのような悪い想像ばかりしてしまい、出るか迷ったが出ることにしてしまった。
「も、もしもし?」
・・・・・・・・・・・・・・
 長い沈黙。
「お母さん?」
 返事はない。
 セールスは有り得ないだろう。
 もしかしてただのイタズラ電話?
「イタズラ電話なら切りますよ」
 そう言いながら耳からスマホを離そうとすると相手がやっと声を発した。
『好きです。佐々木明日香さん』
 若い男の声。間違いない。この声は昨晩、私の背後から聞こえた『え?』という声と同じものだ。
(やっぱりストーカーからだっ!!)
 あまりの恐怖からスマホをもつ手が震えて落としそうになる。早く電話を切りたいと思っても震えているはずなのに金縛りにあったように体は固まって動けない。走った訳じゃないのに息があがっている。
『好きです。手紙みてもらえましたか?ポストに入ってなかったからたぶん見てくれてますよね?』
 手紙を回収したところは見ていないようだけど、手紙を回収したあとのポストは見たようだ。
「あ、ひっひっ」
 どうして番号を知ってるのかとか、言いたいこともいっぱいあるし、怒りもある。でもそれよりも恐怖が勝って声を出そうとすると上擦ってかすれた呼吸音しか出てこない。
『明日香さん、昨日言ってましたよね。直接伝えたら付き合ってくれるって』
 あぁ、やっぱり勘違いしていた。
 さらに恐怖が募った。
『あ、電話や手紙が直接にカウントされるとは思ってないです。ただ、今まで影から明日香さんを見ているだけで十分で、気持ちを伝えるなんて考えたこともなかったから、気持ちを伝えようとしても、恥ずかしくてできなくて。前段階として手紙や電話をかけただけなんです』
 それは近いうちに接触をはかると言っているのだ。私は昨日の自分の行動を後悔した。諦めさせるどころか、むしろ距離を縮めるチャンスを与えてしまった。
「や、ごめ、なさ」
 やっとのことで言えた言葉は情けないくらいの涙声での謝罪の言葉。何に対して謝っているのだろう。わからない。
『え?どうして謝るんですか?明日香さん泣いてません?どうしたんですか?』
 ストーカーに心配かけさせてしまった。いや、元あといえば全部ストーカーのせいだ。怖い思いをしているのも、今こうやって泣いてるのも!
『明日香さん。俺あなたに直接気持ちを伝えたいんです。今日暇ですか?』
 誰がストーカーの呼び出しなんかに応じるか。ふざけるな!
 心では怒りが爆発して文句が次々出てくるがそれを声に出すだけの勇気は相変わらずなかった。
『もし都合が悪ければ、俺が明日香さんの家まで行きますけど』
 その言葉に今までも出ていた冷や汗だったがさらに量を増して溢れる。
 そうだ。相手は私の家を知っているんだ。どうしようどうしよう。逃げられない。引きこもってれば勝ちかと思ったがそうもいかない。
「あ、ま、待ってください、あの、暇です、だから・・・家にはこないでください・・・」
『・・・・』
 返答はない。沈黙が流れる。震える声でやっといえた言葉は情けないほど弱腰だが、意思は伝わったはず。
『はぁ~~~』
 沈黙を破るようにストーカーの溜め息が響く。
(どうしようっ怒ったかな?ふざけるなとか逆ギレして家に来られたらっ。殺されるかも。小百合に、いや、警察にっ、怖いどうしよう!お母さんっ!!)
 頭の中で助けを求めたがそれはかなわない。震える手がさらに震えて手汗で滑ってスマホを今にも落としそうだ。
『はぁ~~!明日香さんの声って本当に落ち着いてて素敵です。耳元で聞けるなんて!電話って素晴らしい機能ですね!』
「へ?」
 訳が分からず困惑する。
 なにをいっているんだこの人は?
『じゃあ今日の午後2時に駅前の“Madonna”というカフェでお待ちしてます!目立つように赤のパーカー着てますから、声をかけてください。それでは』
 プツッ プーッ プーッ プーッ
????
??????
何なんだ?どうしたんだ?
整理しよう。今ストーカーから電話がかかってきて、会いたいとか言われてカフェで待ち合わせをした??なんで??あれ?
 大混乱な頭の中を整理しようと努めたが訳が分からない。
 気がつけば手の震えも冷や汗も止まっていた。
(こんな誘い行くべきじゃないよね。なにされるかわかったもんじゃない。でも行かなかったらまたきっと家に来るよね。あの調子じゃストーカーもやめなさそう。どうしたら)
 冷静さを取り戻した頭はこのストーカーからの誘いをどう乗り切るかについて思考していた。
「そうだ…」
 閃いたと言わんばかりに私は普段使わないものをまとめていれているダンボールを取り出すと中を探り出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敏腕SEの優しすぎる独占愛

春咲さゆ
恋愛
仕事も恋愛も、兎に角どん底の毎日だった。 あの日、あの雨の夜、貴方に出逢うまでは。 「終わらせてくれたら良かったのに」 人生のどん底にいた、26歳OL。 木崎 茉莉 ~kisaki matsuri~ × 「泣いたらいいよ。傍にいるから」 雨の日に現れた、30歳システムエンジニア。 藤堂 柊真 ~Todo Syuma~ 雨の夜の出会いがもたらした 最高の溺愛ストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...