実は安倍晴明は五つ子で互いの功績をひとりの者として扱い後世にはひとりの人物として語られた/時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で

牛馬走

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チャプタ―9

ダメな安倍晴明9

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 そんなことをしゃべっているうちに巨椋池の縁につく。
 すると、どこからともなく白拍子(遊女)が現れた。
「舞をひとつ、いかがでしょうか?」
 遊女の一種の問いかけに、
「よいのではないか」
「安倍家を支えて働いておるのだしな」
 晴俊と晴秀が鼻の下を伸ばして言葉を交わす。
「それではひとつ、頼む」
 晴足の声に、遊女がその場で舞を踊り始めた。
 上級貴族の子でもないから普段は縁のない舞に、兄弟たちは魅せられる。
 やがて、白拍子の舞が終わった。
「貴殿らは安倍晴明のご兄弟では」
 すると、意外なことを白拍子がたずねる。
「確かに、そうだが」
 どう答えるか考えるうちに晴秀が肯定してしまった。
「顔の似たご兄弟が四人いると仲間の白拍子が都で聞いておりました」
 と白拍子が言葉をかさねる。
 正直、自分たちのことを知ってくれていて嬉しかった。
 名声を晴明に集約するため、昼間に祓をするときなどは覆面で顔を隠していて誰か分かったものではない。それだというのに、自分たちのことを漏れ聞いている者いると思うと誇らしさを感じた。が、
「兄上のご活躍、誇らしゅうございましょう」
 という言葉にすべてがぶち壊しになる。
 渋い表情を浮かべる晴秀たちに白拍子は怪訝な顔をするが、兄弟たちとしてもそこまで気づかうことはできなかった。
 結局、気晴らしにいった先でとんだ目に遭ったというのが結末だ。
 その後、気を取り直しあたりを散策し、池を眺めながら持ってきた握り飯を食べて京へともどった。
 その路上で、
「おーい、安倍兄弟」
 と牛車に呼び止められた。車の側面、長物見から外を覗いていたのは白髪頭の老人だった。
「師匠、奇遇ですね」
 真っ先に口を開いたのは晴足だった。
 それにつづき、晴俊、晴秀、晴篤があいさつをする。
「世間では兄弟など仲の悪いものだが、お前たちは仲がいいの」
 賀茂忠行、当世まず一番の陰陽師にも分からないことがあるらしく無邪気に声を発した。
 それに兄弟たちの反応が芳しくなかった。それで、相手に何かがあると露見した。なにしろ、兄弟は忠行の陰陽道の弟子なのだから、ふだんから接する機会はおおく秘密を保てる立場になかった。
「なにか、あったのか?」
 忠行の真摯な問いかけに、
「あるといえばあります」
 と晴足は硬い声で告げた。
 場合によっては長兄と父への別離に発展しかねない問題なだけに気が重かった。
「兄弟とはいえ、そなたらのやりようはやはり歪、疑問に思うも致し方なかろうと前から思っていた」
 頭ごなしに否定するのではなくこちらの考えを支持してくれる、その師の言葉に兄弟たちは胸が熱くなるのを感じた。
「したが、そなたらは忘れておる。己らがと考えるばかり、晴明のことがおろそかになりがちだ」
「捨て扶持(最低外の生活費)でも与えておけばよいのです」
 忠行の言葉に、晴秀が噛みついた。
「ふふ、性根が惡逆ではないそなたらはそれでは心残りとなろう」
「それでは、いかように致せばよいので」
 晴俊が厳しい口調で問いかける。
「後のところまでは語らぬ、そなたらが、晴明の側にいる者らが最善の道を探す、これが最適な道であろう」
 この折に、牛車の姿が消えた。突如として、周囲に樹木が生えたかと思うと枯れてやがて視界から消えた、
 この幻術は、自分たちで考えろという師による明白な意思がこもっている。
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