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チャプタ―17
ダメな安倍晴明17
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そこには、蹴鞠に興じる貴族たちをひとり、いや息子とために眺める忠行の姿があった。
恐らくは、
「陰陽道の業に支障が出る」
などいって蹴鞠の誘いを断ったのだろう。忠行は相変わらず偏屈な老人だ。
「参ったか」
が、晴足に対しては好々爺の笑みで応じる。
この忠行という老人、とにかく優秀な若者が好きなのだ。
ただ、息子の保憲だけは例外らしく晴足の四つ年上の彼は退屈そうな顔で父の側らで酒を飲んでいた。
「今日はなんぞ面白い話はあるか?」
師の問いかけに、とっさに晴足が思い浮かべたのは己が竈神の祟りを沈めた事実だった。
口を開きかけてやめる弟子に不審をおぼえたのは、
「いかがした」
忠行が疑問の声をあげる。
「は、それが」
父を裏切る所業だ、果たして師に告げるべきか否か、そんな思いが去来する。が、結局、
「実は」
と明かした。陰陽道の業を授け、褒めて育ててくれたため第二の父のごとく思っている相手を無下にはできなかった。
話を聞き終えると忠行は、
「ようやった、ようやった」
と我がことのように喜んだ。
「立派なものぞ、なあ保憲」
「さようにございますな」
父の問いかけに保憲は面倒くさそうに答える。
「したが、父上はなんとか誤魔化すのが上策であろうの」
「やはり」
「さような顔をするな、そなたの所業は立派なものである。この忠行が証人となろうぞ」
「師匠」
忠行の慰めの言葉に晴足は胸が熱くなる。
「まあ、かようなことをもおしたことがそなたの父に知られれば大変なことになるがの」
師匠、と今度は微笑を晴足は浮かべた。
「とにかく、陰陽師としてそなたは今日、元服を迎えたともうしてよい」
と、そこに保憲が声を割り込ませた。ぶっきらぼうな若者だが、晴足たち兄弟たちのことば憎からず思っているのだ。
元服、と晴足はちょっと浮ついた口調で言葉を返す。そんな彼に、
「おめでしょう」
あさっての方向に目をやりながら保憲が言い放った。
「照れるな、保憲」
そんな彼の肩に忠行が手を置く。
「照れてなどまりなせぬ、さような道理がない」
「はは、さようか」
蹴鞠の誘いを断る偏屈が笑いながら顎をかく。
「しかし、陰陽師としての元服か。確かにそなたら兄弟には入用かもしれぬな」
そして、忠行が改めて思案げな顔で言葉をかさねた。
言われて、晴足はなるほどと思った。晴明の独り立ちは、兄弟の巣立ちも意味する。となれば、陰陽師として一人前になっておくことは必要なことに思われた。
「忠行殿、やはり蹴鞠に加われませぬか」
「わしは弟子と陰陽道の大事な話をしておる、邪魔立てをせぬでくれ」
庭から聞こえてきた声に忠行はにべもなく答える。
「また、さような偽りを」
「偽りも使いようよ」
晴足が笑うと、忠行はどこか得意げに応じた。
「弟子まで真似をしたらいかがするおつもりか、父上」
そんな父を毛だるげに保憲が諌める。
「大事ない、晴足の性根はわしよりよほど官の陰陽師に向いておる」
「また、さような戯言を」
本気の調子で言う父に、息子は大げさな感じでため息をついた。
「晴足、かような仁のもうしたこと真に受けるなよ」
保憲に注意され、
「承知」
と晴足はこたえた。これでは誰が師なのか分からない。と、
「はは、保憲のほうがよほど師に向いていると見える」
と当の忠行が言うのだから性質が悪い。
だが、晴足はそんな師匠親子のことだ好きだった。どんなに晴明がえこひいきされても彼が腐らずに済んだのは忠行と保憲がいたからだ、そんなふうに思っている。
恐らくは、
「陰陽道の業に支障が出る」
などいって蹴鞠の誘いを断ったのだろう。忠行は相変わらず偏屈な老人だ。
「参ったか」
が、晴足に対しては好々爺の笑みで応じる。
この忠行という老人、とにかく優秀な若者が好きなのだ。
ただ、息子の保憲だけは例外らしく晴足の四つ年上の彼は退屈そうな顔で父の側らで酒を飲んでいた。
「今日はなんぞ面白い話はあるか?」
師の問いかけに、とっさに晴足が思い浮かべたのは己が竈神の祟りを沈めた事実だった。
口を開きかけてやめる弟子に不審をおぼえたのは、
「いかがした」
忠行が疑問の声をあげる。
「は、それが」
父を裏切る所業だ、果たして師に告げるべきか否か、そんな思いが去来する。が、結局、
「実は」
と明かした。陰陽道の業を授け、褒めて育ててくれたため第二の父のごとく思っている相手を無下にはできなかった。
話を聞き終えると忠行は、
「ようやった、ようやった」
と我がことのように喜んだ。
「立派なものぞ、なあ保憲」
「さようにございますな」
父の問いかけに保憲は面倒くさそうに答える。
「したが、父上はなんとか誤魔化すのが上策であろうの」
「やはり」
「さような顔をするな、そなたの所業は立派なものである。この忠行が証人となろうぞ」
「師匠」
忠行の慰めの言葉に晴足は胸が熱くなる。
「まあ、かようなことをもおしたことがそなたの父に知られれば大変なことになるがの」
師匠、と今度は微笑を晴足は浮かべた。
「とにかく、陰陽師としてそなたは今日、元服を迎えたともうしてよい」
と、そこに保憲が声を割り込ませた。ぶっきらぼうな若者だが、晴足たち兄弟たちのことば憎からず思っているのだ。
元服、と晴足はちょっと浮ついた口調で言葉を返す。そんな彼に、
「おめでしょう」
あさっての方向に目をやりながら保憲が言い放った。
「照れるな、保憲」
そんな彼の肩に忠行が手を置く。
「照れてなどまりなせぬ、さような道理がない」
「はは、さようか」
蹴鞠の誘いを断る偏屈が笑いながら顎をかく。
「しかし、陰陽師としての元服か。確かにそなたら兄弟には入用かもしれぬな」
そして、忠行が改めて思案げな顔で言葉をかさねた。
言われて、晴足はなるほどと思った。晴明の独り立ちは、兄弟の巣立ちも意味する。となれば、陰陽師として一人前になっておくことは必要なことに思われた。
「忠行殿、やはり蹴鞠に加われませぬか」
「わしは弟子と陰陽道の大事な話をしておる、邪魔立てをせぬでくれ」
庭から聞こえてきた声に忠行はにべもなく答える。
「また、さような偽りを」
「偽りも使いようよ」
晴足が笑うと、忠行はどこか得意げに応じた。
「弟子まで真似をしたらいかがするおつもりか、父上」
そんな父を毛だるげに保憲が諌める。
「大事ない、晴足の性根はわしよりよほど官の陰陽師に向いておる」
「また、さような戯言を」
本気の調子で言う父に、息子は大げさな感じでため息をついた。
「晴足、かような仁のもうしたこと真に受けるなよ」
保憲に注意され、
「承知」
と晴足はこたえた。これでは誰が師なのか分からない。と、
「はは、保憲のほうがよほど師に向いていると見える」
と当の忠行が言うのだから性質が悪い。
だが、晴足はそんな師匠親子のことだ好きだった。どんなに晴明がえこひいきされても彼が腐らずに済んだのは忠行と保憲がいたからだ、そんなふうに思っている。
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