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チャプタ―26
ダメな安倍晴明26
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晴足は厠に立った。すると、外に気配を感じる。用を済ませて廊に立つと、保憲が神妙な顔で佇んでいた。
「いかがされた、保憲殿」
「ちと、まずいことになったぞ、晴足」
晴明の呼びかけに、保憲は言葉通りの声を発した。
「野菊だがの、縁談の話が持ち上がった」
「野菊に縁談が?」
晴足はすっとんきょうな声をあげた。野菊とは彼の恋する雑人(使用人)の娘で、そのことを唯一知っている保憲が何かと世話を焼いてくれていた。
「父上の知る辺の貴族の家司が相手だ」
「そんな」
晴足はどうすればいいか分からない。まだ、自立もできていないのだ、野菊の縁談に割って入る度胸もなかった。
「向こうも、野菊もこたびの話、悪く思っていないというぞ」
そんな晴足を叱咤するように保憲は告げる。
「手をこまねいておれば、野菊は人のものとなってしまうぞ」
「それは」
嫌だった。だが、どうしていいかがわからない。煮え切らない晴足に業を煮やしたのか、
「よいか、まろは伝えたからな」
と言い残し、保憲は背を向け去って行った。
人のものとなってしまう――晴足は胸のうちでその言葉をくり返した。胸に矢が刺さったような痛みをおぼえる。
その後、食事が終わり、晴足たちは忠行の邸を辞した。徒歩で自分たちの邸を目指す。
「それにしても、こたびの依頼はしわい(ケチだ)よなあ」
晴俊が歩きながら渋い声をあげた。
「我らが口をつぐまねば呪詛のかど(件)で捕まるというのにな」
「こたびのことがなくとも、いつか破滅するのではないかなあ」
晴秀が皮肉な口調で言った。晴足はあきれ混じりにそんな声を発する。
他方、晴篤は器用なことに歩きながら舟をこいでいた。
晴明は起きているが何やら黙って考え込んでいるようすだ。
「いっそ、検非違使に知らせてやろうか?」
「止めなされ兄上。ことを内密にできぬ、と依頼がこなくなりまするぞ」
意地悪な口調で言う晴秀を晴足は諌める。
「にしても、口惜しい(悔しい)な」
晴俊はため息交じりにつぶやいた。そこへ、
「みな」
と晴明の声がひびく。
「なんだ、やぶから棒に」
晴秀が怪訝な顔で側の晴明を見やった。心情は他の者も一緒だ。晴篤さえ目を覚まして兄を見やっている。
「まろが独り立ちせねば、みなは困るのか」
晴明な唐突なせりふを吐いた。
「困る」
こらに晴秀が即座に返す。
「晴明兄が独り立ちできねば、父上も余(他)の息子たちが独り立ちすることは許さぬであろうからな」
晴秀が重ねた言葉は晴足も同感だった。
「余の者もか」
晴明の問いかけに残りの兄弟も揃ってうなずく。
「己の働きが“陰陽師安倍晴明”のものとして喧伝されるのも面白くないのだ」
晴俊が不機嫌さを隠さずに告げた。
「それも余の者もか?」
晴明の確認に、晴俊以外の兄弟が首肯する。
これに、「そうか」と応じて晴明がうつむき沈思黙考するようすを見せた。それ以上、言葉を発するようすがないのに、
「なんなのだろうな」
といった顔で兄弟は互いを見やった。
「いかがされた、保憲殿」
「ちと、まずいことになったぞ、晴足」
晴明の呼びかけに、保憲は言葉通りの声を発した。
「野菊だがの、縁談の話が持ち上がった」
「野菊に縁談が?」
晴足はすっとんきょうな声をあげた。野菊とは彼の恋する雑人(使用人)の娘で、そのことを唯一知っている保憲が何かと世話を焼いてくれていた。
「父上の知る辺の貴族の家司が相手だ」
「そんな」
晴足はどうすればいいか分からない。まだ、自立もできていないのだ、野菊の縁談に割って入る度胸もなかった。
「向こうも、野菊もこたびの話、悪く思っていないというぞ」
そんな晴足を叱咤するように保憲は告げる。
「手をこまねいておれば、野菊は人のものとなってしまうぞ」
「それは」
嫌だった。だが、どうしていいかがわからない。煮え切らない晴足に業を煮やしたのか、
「よいか、まろは伝えたからな」
と言い残し、保憲は背を向け去って行った。
人のものとなってしまう――晴足は胸のうちでその言葉をくり返した。胸に矢が刺さったような痛みをおぼえる。
その後、食事が終わり、晴足たちは忠行の邸を辞した。徒歩で自分たちの邸を目指す。
「それにしても、こたびの依頼はしわい(ケチだ)よなあ」
晴俊が歩きながら渋い声をあげた。
「我らが口をつぐまねば呪詛のかど(件)で捕まるというのにな」
「こたびのことがなくとも、いつか破滅するのではないかなあ」
晴秀が皮肉な口調で言った。晴足はあきれ混じりにそんな声を発する。
他方、晴篤は器用なことに歩きながら舟をこいでいた。
晴明は起きているが何やら黙って考え込んでいるようすだ。
「いっそ、検非違使に知らせてやろうか?」
「止めなされ兄上。ことを内密にできぬ、と依頼がこなくなりまするぞ」
意地悪な口調で言う晴秀を晴足は諌める。
「にしても、口惜しい(悔しい)な」
晴俊はため息交じりにつぶやいた。そこへ、
「みな」
と晴明の声がひびく。
「なんだ、やぶから棒に」
晴秀が怪訝な顔で側の晴明を見やった。心情は他の者も一緒だ。晴篤さえ目を覚まして兄を見やっている。
「まろが独り立ちせねば、みなは困るのか」
晴明な唐突なせりふを吐いた。
「困る」
こらに晴秀が即座に返す。
「晴明兄が独り立ちできねば、父上も余(他)の息子たちが独り立ちすることは許さぬであろうからな」
晴秀が重ねた言葉は晴足も同感だった。
「余の者もか」
晴明の問いかけに残りの兄弟も揃ってうなずく。
「己の働きが“陰陽師安倍晴明”のものとして喧伝されるのも面白くないのだ」
晴俊が不機嫌さを隠さずに告げた。
「それも余の者もか?」
晴明の確認に、晴俊以外の兄弟が首肯する。
これに、「そうか」と応じて晴明がうつむき沈思黙考するようすを見せた。それ以上、言葉を発するようすがないのに、
「なんなのだろうな」
といった顔で兄弟は互いを見やった。
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