実は安倍晴明は五つ子で互いの功績をひとりの者として扱い後世にはひとりの人物として語られた/時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で

牛馬走

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チャプタ―56

ダメな安倍晴明56

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 後日、賭場の開かれる邸に晴足たち兄弟の姿はあった。ただし、晴明は同道していない。こたびは晴足たちの息抜きが目的のためだ。
 釣殿で双六を挟んで無数の貴族が向かい合っている。その列に晴足たちも並んだ。
 ちなみに吉兆を改めて占うことはしていない。そんなことをすると賭けが面白くなくなる。
 相手と熾烈な駆け引きをくり広げて双六をを制する。
「よし」と小さく声が漏れた。
 それから部屋の隅の休憩場に兄弟たちは集まる。
「勝った」「負けた」「勝った」「――」
 寝ている晴篤を除いて二勝一敗、まずまずだ。
「やはり、賭け事はよいな」
 すぐに熱くなる晴俊が水を椀で飲みながら口角を吊り上げる。
「勝てばそれは面白かろう」
「まあまあ」
 負けて不貞腐れる晴秀を晴足は慰める。ただ、そんな晴足も明るい気持ちではない。
 晴明の練達が遅いことで、このままでは一生兄のお守りで人生が終わるのではないかと心配しているのだ。
「こんな息抜きを何度すればよいのだ、我らは」
 晴秀がため息混じりに告げた。
 兄が言いたいのはこうだ。こんなふうに息抜きで自分を誤魔化すことをどれだけくり返せばいいか、と訴えている。
 ちなみに、賭場ということもあってこちらの話を聞いている第三者はいなかった。みな、盤面に集中している。邸の主も今は不在だ。
「今日はよさんな」
 晴俊の言葉にも、
「このまま生涯を兄に捧げるのではたまらんぞ」
 晴秀は愚痴めいたせりふを止めない。
 晴足も内心は同様でため息をついて彼を止められなかった。
「なあ、なにもまろとは言わん、誰か晴明以外の者が家を継いでよいのではないか? 我ら兄弟は十二分に家に仕えておろう」
 次に晴秀が発したのは禁句だ。
 晴秀は思わず硬直し、晴俊も片眉をあげてみせた。
「なにも我らが晴明を担ぎ上げずとも、誰かが養ってやればよい。それこそ、あやつの成長をそのようにして待てばよいではないか」
「心持ちはよう分かる、晴秀兄。なれど、亡き母上の遺言でもあるのだ、兄上を盛り立ててゆくというのは」
 晴足は胸の痛みをおぼえながら告げる。
「それに父上の願いでもあるしなあ」
 お手上げと言いたげな口調で晴俊が声を発した。
「なれど、晴明を担ぎ上げて生きるはあまりにもみじめぞ」
 晴秀は顔を歪めて悔しげな表情を浮かべる。
 晴足とて晴明の名を高めるためだけに生きるような生き方には疑問をおぼえるようになっていた。自分ひとりで祓えを成し遂げてからは特にそうだ。
「なれど、ここで見捨てたら晴明兄はどんな心持ちになるか、それも考えるのだ」
 晴俊の言葉に、晴秀は弱々しくかぶりをふった。
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