平安山岳冒険譚――平将門の死闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 早(はや)――彼女は体を開いている。手鉾の切っ先は虚しく空を切った。即座に野太刀の鋒に片手を添えて刺突をくり出す。肝をつらぬかれた男は凄絶な悲鳴をもらす。
 電光石火、ふたりをほふったのふに鋭い刺突がくり出された。
 体を開いて避けるも反撃する暇(いとま)もなく二撃目、三撃目の突きが放たれる。
 まずい、この者強い――のふは背筋に寒いものをおぼえた。
 刹那、人相の悪い男の喉に矢が貫通する。
 あ、と思って飛来したほうを見やると、野太刀を鞘に収めた在信の姿がすこしはなれたところにあった。
「そなたが敵の気を引け、手前が敵を仕留める」
 凛々しい声で女に囮になれと訴えてくる。まってくもってちぐはぐな男だ。
 だが、
 まあ、いい――。
 とのふは思った。どちらにしろこの場を切り抜けなければ生き残ることはできない。
 最初から伏せていたのだろう、脇のほうから数人の男が手鉾を手に迫ってきた。
 その先頭の男は、風変わりなことに蕨手刀(わらびでとう)を二本手に握っていた。
 刃風一颯、のふが入身をし一撃を加える。瞬間、その一撃が一本の蕨手刀で受け流された。
 とたん、二撃目がくるかと思われたが相手は後ろに退いた。次の瞬間、矢が中空を通り過ぎる。在信の矢がはずれたのだ。
 が、回避の隙をのふは見逃さない。両手で柄を握り大振りな袈裟斬りの一撃を放った。手のひらに確かな感触をおぼえた。敵は肩口から胸元まで深々と斬られていた。だが他にも敵はいる、のふは次の相手と斬り結ぶために剣尖を引き抜いた。
 その間も、残りの敵に矢が突き刺さっている。必ずしも必殺ではないが確実に体をとらえていた。言うだけのことはあるじゃないの――のふは口もとにかすかに笑みを浮かべ次の敵に向かう。

 将門はひとりで複数の敵を相手に立ち回っていた。
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