平安山岳冒険譚――平将門の死闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 将門は顔をしかめていた。
 都でおこなっていた殺しも決して愉快ではなかった。
 だが、あくまで権謀術数の世界に生きている者たちだ。ある意味、その死は一種の必然でもある。
 しかし、こたび傷つけた者たちは単なる庸民だ。別に権勢を欲しているわけでもない、誰かを貶めたわけでもない、理不尽に対し立ち向かおうとする人々だ。
 ふいに怒りが込み上げた。なにに、とは言いがたい、あえて言葉を選ぶなら“理不尽”というものそのものに対して憤りをおぼえたと言うべきか。
「小次郎、みなは向後、いかがするのだろう」
「さてな、見当がつかぬ」
 いつの間にか側に来ていた福丸の問いかけに、将門は冷や水を浴びせられた気分になりながら嘘をついた。実は予想はついている。あそこまで大きな“敗北”を経験してなお、目代に立ち向かおうという気概を彼らが持てるとは思えなかった。
 将門の虚言に気づいたのだろう福丸は悲しげな顔をする。
「なんで、こんなことになるの」「運、としかもうしようがない」
 疑問に答える声に力はなかった。
「神様も、仏様もいやしないんだ」
 福丸の捨鉢な言葉を将門は否定できない。そうしてやりたいのは山々だが。
 そこに在信が近づいてきた。視界の端では、ついに声をかけ合う距離にまで来た山の民たちと笑顔で言葉を交わすのふの姿をとらえていた。
「すべてはこたびの務めを命じた一の人のせい、さように存念してはどうだ」
 在信が片眉をあげて告げる。
「すべては摂政のせい、か」
 それに将門は皮肉な笑みを浮かべる。
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