平安山岳冒険譚――平将門の死闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

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「呪詛の風聞によって摂政の権勢を削ごうというのが下手人の思惑であろう」
　そのせりふを受け邦平は背筋が先ほどよりかなり強く寒くなるのを感じる。摂政の権勢が翳ってまず得をするのが、二番手の地位にいる右大臣だからだ。
「心配いたすな。麿ではないでおじゃる」
　こちらの権力争いに巻き込まれてはたまらない、という思いを汲み取った定方が安心しろとばかりに意味ありげな目つきをする。
「風聞が聞こえてこなくなった、ということは下手人は刺客が呪詛をおこなっておる場所に向かったのを察知しこれを追って都を去ったのだろうな」
「ということは麿にはもはや申し上げる儀はございませぬな」
「よいよい。よいから、もう少し飲んで行(ゆ)け」
　邦平はこれ以上余計なことを聞かされる前に退散したかったが定方に呼び止められては帰るわけにはいかない。飲み干す前に盃に瓶子から酒が注がれた。それが邦平には毒にしか見えなかったが、もはや破れかぶれだ彼は盃に勢いよく口をつけた。
「よい飲みっぷりでおじゃる」
　それに定方は満足げにうなずいた。

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　将門たちが都を立って、参河の渡津のあたりにまでたどりついていた。この土地は参河国府を過ぎた場所にある。よって、旅のおよそ半分を消化していた。