平安山岳冒険譚――平将門の死闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「それにはふたつ、事由があるわ」
「ほう、ふたつか」
 のふの言葉に将門はひとつうなずく。
「一つは里のため。かつて、山の民からも祖調庸を取ろうとした国司がいて、それを今の摂政が辞めさせた恩義があって、祖調庸を収めないでいつづけるためにために摂政の下知を聞いているのよ」
「さような儀があったのか」
 山の民は自儘に生きていると思っていたからその言葉にはおどろかされた。
 どこに行ってもしがらみから逃げることはできぬのだな――将門はそんな思いを抱く。
「ふたつ目は、あたいが危地に臨みたかったから」
 悪戯っぽい表情でのふはこちらを見やった。
「充分に満足したのではないか」
 将門はこれまでの道のりを思い嘆息する。
 が、のふは、「まだまだ」と首を横にふった。貪欲なやつだ――将門はあきれた思いを抱く。
 彼らの間には暢気な空気が流れていた。しかし、それを破る人間がその場に現れる。真っ先に反応したのは犬の足往だ。何者かの接近を知らせて吠え立てた。
「お手前らは、一の人の雑人であられようか」
 東海道を早足に歩いてきた少丁とおぼしき男が声をかけてくる。褐衣姿で野太刀を佩いていることから兵だろう。歩みの速度を落として近づいてくる。
 将門たちは一斉に素早く立ち上がった。
「まずはそちらから名乗られよ」
「手前は参河の国の兵、源俊成(みなもとのとしなり)。一の人の雑人がこのあたりに来ていると聞き及び、かの御仁へ手前が仕えるためのつなぎを頼みたく貴殿らを探していた次第だ」
 相手の言上に将門は顔をしかめた。
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