平安山岳冒険譚――平将門の死闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 そこから、父が一気に表情を変えた。喜悦の色を露わにし郎党に「酒と肴を買って参れ」と命じた。
 酒が届く前から顔をかすかに赤くし、釣殿を頻りに行き来することをし、あるいは将門の背中を強く叩き、
「よくやったな、小次郎」
 と元服した将門の通り名を呼んだ。
 それから酒と肴が調達され、父と郎党たちはささやかながら祝杯をあげて盛り上がった。
 が、父と郎党が去ったのち、将門は自分が“警固兼汚れ役”として忠平に仕えることになったことを政敵の雑人を斬るよう命じられるようになって悟った。
 闇討ちをくり返すうちに将門は次第に思うようになっていく。
 このままでいいのか――と。
 ふいに、“これ”が夢だと将門は気づいた。
 このままでよいかどうかか――記憶が途切れ意識のなかには闇が広がる、そのなかで思念だけが働く。
 理不尽な目に遭うのはもううんざりだ――。
 そう思ったところで、ふいに顔が意識されそこを湿ったものが幾度も擦るのが認識された。
 そこで闇が薄れ、瞼が開いて視界が広がる。

   四

 将門は自分の顔を足往が舐めているのを認めた。
「やっと、目が覚めたか」
 傍らにのふが立つ。
「無事か」
「あんたこそどうなの」
 将門の問いかけにのふが険しい顔で問いかける。
 将門は手足に力を込めてみた。どこにも違和感はない。幸いにも、事前に山の民から受け取った氷の上を歩くのに使う道具も足にはまったままだ。これは半円形の鉄輪で、外側の片方に突起が無数についている、名を鰐歯(わにば)という。
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