平安山岳冒険譚――平将門の死闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「それより頼慶、敵の安否は確かめてきたか」
「益体もない。さような余裕があるはずなかろう」
 安友の傲慢の問いかけに内心のいら立ちを隠して頼慶は応じる。

   五

 将門は足もとから寒気がこみあげるなか、鞘を氷の成り損ないに突き刺しながら一歩一歩、上へと目指していた。ただ、上を目指しているかどうかは将門は正直なところ危うい。山頂に近づくにつれて霧が濃くなっているのだ。
 だが、
「さっきより霧が晴れてきている」
 というのがのふの弁だ。その点については将門は信じていた。ここに登ってくるまでも、のふの忠言は役に立ったし、あらかじめ仲間の山の民に接触して山を登る道具を調達したのものふだ。
 そんな彼女は将門の前を進んでいた。先頭はお決まりで足往だ。
 と、足往が九に足取りを止める。
 とたん、将門はのふと背中合わせになった。
 紫電一閃、霧の中から鉾(ほこ)がくり出された。抜刀一閃、茎を持たない鉾は鉄に覆われていない部位は弱い、そこを切断した。
 未熟――状態に流れた相手の鉾のなれの果てを掴んで思い切り引き寄せた。
 同時に剣尖を相手に突き刺す。霧のおかげで人数で押し潰されずには済んでいるが、一方でいつ闇討ちにかかるやもしれぬという危険と隣り合わせだ。
「足往、吠えろ」
 のふの指示にしたがって足往が力の限り吠えるのが聞こえた。どこまでもひびき渡るかと錯覚させるほどの遠吠えだ。
「のふ、大事はないか」
 ふり返らず声だけでたずねた。
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