陣借り狙撃やくざ無情譚(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「俺は仇が討ちたい」
 栄助は家に来るまでに固まった思いを告げた。言葉にしたことでさらに決意が固くなる。
「駄目よ兄さん。仇討なんてしてどうするの? 誰も蘇りはしないわ」
「それでも、朋友の無念を晴らしたいんだ」
 反対する妹に栄助はあくまで淡々とした声で告げた。自分のなそうとしていることを思うと力がわいてくることはない。
 栄助は板敷にあがり、猟の道具をしまう道具箱から油紙の包みを出しておよねのもとに近寄った。
 妹は熊でも目の前にしたような恐れのまなざしを向けて固まる。
「およね、これで嫁入りには足りるだろう」
 栄助は複数の金朱を妹の手に握らせた。
「やだよ、にいさん。こんなの」
「俺がいなくなっても、お前はこの村で幸せに生きてくれ」
 かぶりをふる妹に栄助は噛んで含めるように告げる。
 なおも首をふる妹の手を栄助は強く握った。
 山狩りでの殺生、あれがなければまた結末は変わったかもしれない。だが、人をひとり殺めた事実が、またひとりを手にかけることへの抵抗を小さくしている現実は変えようがない。
 それから栄助は旅装となり、振り分け荷物に荷物をまとめ猟の道具を身につけて百姓家を出た。
「さよなら、およね」
 もう、家には戻らないつもりだ。
 人殺しが妹の側にいてはならない。だから、故郷であるこの村をあとにして旅に出るつもりだ。
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