34 / 137
34
しおりを挟む
「俺は仇が討ちたい」
栄助は家に来るまでに固まった思いを告げた。言葉にしたことでさらに決意が固くなる。
「駄目よ兄さん。仇討なんてしてどうするの? 誰も蘇りはしないわ」
「それでも、朋友の無念を晴らしたいんだ」
反対する妹に栄助はあくまで淡々とした声で告げた。自分のなそうとしていることを思うと力がわいてくることはない。
栄助は板敷にあがり、猟の道具をしまう道具箱から油紙の包みを出しておよねのもとに近寄った。
妹は熊でも目の前にしたような恐れのまなざしを向けて固まる。
「およね、これで嫁入りには足りるだろう」
栄助は複数の金朱を妹の手に握らせた。
「やだよ、にいさん。こんなの」
「俺がいなくなっても、お前はこの村で幸せに生きてくれ」
かぶりをふる妹に栄助は噛んで含めるように告げる。
なおも首をふる妹の手を栄助は強く握った。
山狩りでの殺生、あれがなければまた結末は変わったかもしれない。だが、人をひとり殺めた事実が、またひとりを手にかけることへの抵抗を小さくしている現実は変えようがない。
それから栄助は旅装となり、振り分け荷物に荷物をまとめ猟の道具を身につけて百姓家を出た。
「さよなら、およね」
もう、家には戻らないつもりだ。
人殺しが妹の側にいてはならない。だから、故郷であるこの村をあとにして旅に出るつもりだ。
栄助は家に来るまでに固まった思いを告げた。言葉にしたことでさらに決意が固くなる。
「駄目よ兄さん。仇討なんてしてどうするの? 誰も蘇りはしないわ」
「それでも、朋友の無念を晴らしたいんだ」
反対する妹に栄助はあくまで淡々とした声で告げた。自分のなそうとしていることを思うと力がわいてくることはない。
栄助は板敷にあがり、猟の道具をしまう道具箱から油紙の包みを出しておよねのもとに近寄った。
妹は熊でも目の前にしたような恐れのまなざしを向けて固まる。
「およね、これで嫁入りには足りるだろう」
栄助は複数の金朱を妹の手に握らせた。
「やだよ、にいさん。こんなの」
「俺がいなくなっても、お前はこの村で幸せに生きてくれ」
かぶりをふる妹に栄助は噛んで含めるように告げる。
なおも首をふる妹の手を栄助は強く握った。
山狩りでの殺生、あれがなければまた結末は変わったかもしれない。だが、人をひとり殺めた事実が、またひとりを手にかけることへの抵抗を小さくしている現実は変えようがない。
それから栄助は旅装となり、振り分け荷物に荷物をまとめ猟の道具を身につけて百姓家を出た。
「さよなら、およね」
もう、家には戻らないつもりだ。
人殺しが妹の側にいてはならない。だから、故郷であるこの村をあとにして旅に出るつもりだ。
0
あなたにおすすめの小説
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
対米戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。
そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。
3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。
小説家になろうで、先行配信中!
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
【読者賞受賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜
☆ほしい
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞(ポイント最上位作品)】
文化文政の江戸・深川。
人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。
暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。
家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、
「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。
常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!?
変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。
鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋……
その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。
涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。
これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる