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チャプタ―35

チャプタ―35

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 次の瞬間、市右衛門の腕が電光と化す――宙を走った太刀の刃が首を精確無比に薙いだ。噴き上がる血に苦々しさがこみ上げてくる。
 が、戦いはこれで終わりではない。
 振り向き様に太刀を下段へ――後続の足軽が放った足への斬りつけを防御した。重い手応え、これが命のやり取りの重さだ。殺(や)るか、殺られるか。
 斬撃を放った相手は目を瞠って固まった。
 だが、さらに後ろの足軽が太刀で挑んでくる。
 閃、市右衛門は無造作とも言える動きで真正面から相手の斬り下しに応じた。
 本来なら、刃と刃が噛み合って終わりだ――が、新陰流の遣い手の場合は違う。
「な……ぜ?」
 顔面を割られ、脳髄を裂かれた足軽が白目を剥いて倒れた。
 合撃(がっしうち)という技だ。
 刃と刃が触れ合った瞬間、鎬で相手の太刀を微妙に逸らすことで結果的に同時に斬り合っても勝ちを得ることができる。
 ――風を裂いて槍の刺突が肉薄した。
 迅影と化して市右衛門は動く――太刀を頭上に移動させながら、体を開いた。
 槍を繰り出した足軽が次の一撃を放とうとするが、それよりも早く市右衛門は間合いを詰めるや籠手を斬りつける。
 ……相手の片方の手首から先が、腕、槍の双方から離れた地面に落ちた。
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