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チャプタ―36

チャプタ―36

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「――!」
 耳を塞ぎたくなる悲鳴を、重傷を負った足軽が迸らせる。
 もうこれ以上、斬りたくない……――そんな思いが市右衛門の脳裏に閃いた。
 刹那、渠の横を巨漢が通り過ぎる。
 当世具足姿の、七尺に及ぶ背丈の男が突如として出現したのだ。
 しかも、手にしていた長巻を風を巻いて振るう。
 次の瞬間、とんでもない光景が出現する――腹当も骨も肉も関係なく、一閃のもとに、それも数人まとめて切断してみせた。
 立てつづけに一閃。
 それで、残りの足軽も上半身と下半身に別れて絶命する。
「おぬし、なにをやっておるのだ!」
 ――怒声に首をすくませて、市右衛門は後ろを振り返った。
 そこには、目を吊り上げた道明の姿がある。渠は、手に古式ゆかしい剣を掲げていた。
「斬るなら、“これ”で斬れ!」
「ああ、すまぬ――」
 思わず謝ったところで、ハッとそれどころではないと気づく。
「“あれ”はなんなのだ!?」
「ああ、あれか? あれは、式神だ」
 背後の巨漢を指差して狼狽える市右衛門に、道明はなんてことのない口調で答えた。
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