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チャプタ―92

チャプタ―92

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 笛の音(ね)が高く、鼓の音(おと)が激しく――両方の楽器の音色が急調になって、それに合わせて二匹の獅子が荒々しくなった。
 子獅子が舞いながら刀を見つけた所作をし、手や身体を震わせ、太刀を指さして近寄ったり飛び退いたりして恐れをなした態(てい)を示す。
 雄獅子もこれに気づき、ふたりで刀を指して恐怖の舞いを見せた。
 ――子獅子が退く。
 逆に、雄獅子は徐々に太刀に近づいていって、これを手に取り翳して見た。
 最後には、押し頂き抜き放って刃風を鳴らして太刀で虚空を斬りつけながら勇猛に舞う――。
 刹那、「面白き人間がおるな」しわがれたような声がふいに間近であがった。
 それに反応を示したのは、市右衛門と道明のふたりのみだ。
 唐突に手の届く範囲に、古代の衣装をまとった白髪白髭の老爺が姿を現している――好々爺の笑みを浮かべて渠の腰はまっすぐに伸びていた。
 だが、なによりも異常なのは、その気配だ。
 数万の軍兵が白刃を振りかざして迫るような“圧力”を周囲に放射している。
 姿は見えずとも気配は感じるのか、周囲の人々が背筋にふるえの走った顔つきであたりを見回すなどの動きを示した。
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