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チャプタ―114
チャプタ―114
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「これなる者は、もはや清次郎にあらず――単なる地下の男に過ぎませぬ」
そんなこちらの胸中を見透かし、八九郎が残酷な事実を突きつけた。
「まことに――」
「問答している暇(いとま)はございませぬ。ぼやぼやしていると敵は遠くまで遁走し、二度とまみえることができぬかもしれませぬ。蘆屋氏(うじ)も取り返せてはおらぬのでしょう?」
なおも弱さを露呈しようとする市右衛門に、八九郎がやや強い語調で告げる。
八九郎、平兵衛が非難するような眼差しで渠を見やった。
だが、そんなやり取りが酷く“遠い”。
結局、落ち武者狩りから救ってくれた礼も、別れも告げることができなかった……――。
一度、死別して、大事な者が側にいることが当たり前ではないと知ったはずだというのに。
六年のときを共に過ごすうちに、つい失念していた。
幾度でも過ちを犯すのが人の性(さが)というものだ。
だが、これでは余りにも成長というものが見られない――市右衛門は己の未熟さに奥歯を強く噛んだ。
「若――」
こちらを気づかい、平兵衛が声をかけようとする。それを、
「案内(あない)を頼めるか」
市右衛門は、山潜りへの言葉で遮った。
そんなこちらの胸中を見透かし、八九郎が残酷な事実を突きつけた。
「まことに――」
「問答している暇(いとま)はございませぬ。ぼやぼやしていると敵は遠くまで遁走し、二度とまみえることができぬかもしれませぬ。蘆屋氏(うじ)も取り返せてはおらぬのでしょう?」
なおも弱さを露呈しようとする市右衛門に、八九郎がやや強い語調で告げる。
八九郎、平兵衛が非難するような眼差しで渠を見やった。
だが、そんなやり取りが酷く“遠い”。
結局、落ち武者狩りから救ってくれた礼も、別れも告げることができなかった……――。
一度、死別して、大事な者が側にいることが当たり前ではないと知ったはずだというのに。
六年のときを共に過ごすうちに、つい失念していた。
幾度でも過ちを犯すのが人の性(さが)というものだ。
だが、これでは余りにも成長というものが見られない――市右衛門は己の未熟さに奥歯を強く噛んだ。
「若――」
こちらを気づかい、平兵衛が声をかけようとする。それを、
「案内(あない)を頼めるか」
市右衛門は、山潜りへの言葉で遮った。
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