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チャプタ―140

チャプタ―140

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 ちなみに、「おことのような者、戦場でおっ死(ち)なぬか心配で放っておけるか」という台詞は聞こえなかったことにしておいた。
 ――それはともかく、確かに棒立ちしている余裕はない。
 周囲では相変わらず激戦がつづいている。だからといって、殴る必要はないが――。
 市右衛門は、情けない顔になりながら槍を持ち直した。

      八

 前線の島津軍が数を減らしてきたため、市右衛門たちは孤立しないように留意しながら、ただし敵には背を向けないようにしながら徐々に後ろへと下がっていった。

 これに対して、鎮周らは嵩にかかって攻め立てる。
 ――だが、異変が起きた。

 槍を損じ、棒術で応戦し、それすらも失って、市右衛門は大刀(たち)でもって敵を迎えていた。状態は家臣たちも似たようなものだ。
 膨大な数の敵が間断なく打ちかかってくるため、殺した相手の槍を拾うということすら叶わないのだ。
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