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チャプタ―141

チャプタ―141

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 ただ、市右衛門が手にしているのは大刀だけではなく、護身剣も握っていた。
 渠は新陰流の流儀に独自の工夫を加え、二刀でもって敵と相対する術を生み出しているのだ。祓魔師(エクソシスト)と戦いを繰り広げたときは、普段は護身剣を持ち歩いていないせいで振るえなかった。
 ――斬り下ろされた刃を見切って横に逃れる。同時に、大刀で上から敵の刀身を打ち落とした。さらに電撃的迅さで護身剣で相手に横薙ぎの一撃を加える。
 転瞬、新たな敵の大刀の斬撃を受け止めた。すぐさま、護身剣で紫電の刺突を見舞う。
 またたく間に大友家の士卒を屠った――が、一連の攻防で大刀は既にぼろぼろだ。むしろ、疵一つない護身剣のほうがこの情況ではおかしい。
 そしてついに――太刀の刃が折れる。
“転”――とっさに、攻撃をのがれると同時に、死角を突いて槍を繰り出した相手の背後に市右衛門は回りこんだ。
 喉に肘を叩き込んで、相手を悶絶させる。
 が、得物を奪う前に、次の敵が前と左右、三方から襲ってきた。
 これでは討たれる――そう思った刹那、喚声が市右衛門や大友勢から見て横の方から聞こえる。
 伊集院忠平、忠棟らの軍が大友勢の横腹に襲いかかったのだ。
 さらに、これに呼応して後方にひかえていた義久の本隊も攻撃に加わった。
 ――にわかに、戦の流れが変わる。
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