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チャプタ―171

チャプタ―171

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 ――西軍にこれだけの戦力が集まったのは、ひとえに治部少輔の面目躍如があった。
 なにしろ、五大老のひとり毛利輝元は前年から内府と起請文を交わして交流を深めていた。さらに、同じ五大老ながらも格上の内府に対し恭順の意を見せていたのだ。
 同じく前田利長――渠は前年に内府暗殺計画の黒幕の疑いを持たれたあと、母親の芳春院を江戸に送るなどして、内府の顔色をうかがい反抗の姿勢などまったく示していなかった。
 宇喜多秀家は、内府に恩義がある。家中の内紛を渠のおかげで収拾できたのだ。秀家はこのとき、己の無力さと内府の力量をいやがうえにも思い知らされている。それから、まだ半年も経っておらず、とうてい内府に頭があがる立場ではなかった。
 では、五奉行はどうか?
 浅野長政は、内府暗殺などというあきらかな濡れ衣により八王子城に蟄居中、治部少輔自身も五奉行の地位から降ろされ居城に同じく蟄居していた。
 残る三奉行の、前田玄以、増田長盛、長束正家は内府に抗うほどの気骨を持ち合わせていない――前年に内府暗殺計画を密告したのは、増田、長束の両者だ。
 そんな情況において、宇喜多秀家を秀吉への恩顧で説得し、毛利輝元を政権掌握を約束することで口説き落とし、といった具合に内府に対抗できる勢力をつくりあげた……。
 そもそも、平懐者(へくわいもの)――冷徹で横柄と一般的には評されているが、実像はどうも違ったらしい。
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