162 / 207
チャプタ―174
チャプタ―174
しおりを挟む
「平兵衛、ひとつ頼みがある」
目でこちらを見た平兵衛が、道明に聞かれたくない話だ、と察してくれ前を向いたまま、
「なんなりと」
と簡潔に応えた。
「道明を死なせるな、守ってほしい。そして、できうるならば島津のための武働きを――」
「ついに、おのれで“決め”ましたな、殿」
「……」
平兵衛の言葉に、市右衛門は言葉を失って思わず渠を見やる。初めて、「殿」と呼ばれた……。
そんなこちらを、老家臣は壮年の顔貌に満面の笑みを浮かべて見返した。
「殿が独り立ちなされるまで、そう思いさだめて幾星霜――長(なご)う、ござった」
笑顔に苦味が混じる。
「……待たせて、すまぬ」
市右衛門は、思わず声を震わせた。
「なんの、まさか老いた身で御方様の尊顔まで拝見できるとは思わなんだ――お任せあれ」
「どうかしたのか?」
言葉を交わすふたりの様子からなにか感じとったのか、後ろから道明が尋ねる。
「なんでもありませぬ」
とっさに応じかねる市右衛門に代わって、平兵衛がそれにこたえた。
目でこちらを見た平兵衛が、道明に聞かれたくない話だ、と察してくれ前を向いたまま、
「なんなりと」
と簡潔に応えた。
「道明を死なせるな、守ってほしい。そして、できうるならば島津のための武働きを――」
「ついに、おのれで“決め”ましたな、殿」
「……」
平兵衛の言葉に、市右衛門は言葉を失って思わず渠を見やる。初めて、「殿」と呼ばれた……。
そんなこちらを、老家臣は壮年の顔貌に満面の笑みを浮かべて見返した。
「殿が独り立ちなされるまで、そう思いさだめて幾星霜――長(なご)う、ござった」
笑顔に苦味が混じる。
「……待たせて、すまぬ」
市右衛門は、思わず声を震わせた。
「なんの、まさか老いた身で御方様の尊顔まで拝見できるとは思わなんだ――お任せあれ」
「どうかしたのか?」
言葉を交わすふたりの様子からなにか感じとったのか、後ろから道明が尋ねる。
「なんでもありませぬ」
とっさに応じかねる市右衛門に代わって、平兵衛がそれにこたえた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる