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チャプタ―184

チャプタ―184

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 さらに、東軍不利となれば、南宮山の毛利勢が背後から襲ってこないとも限らない。そうなってしまえば、東軍は完全に放置され殲滅の憂き目に遭う。
 このままでは、まずい――まずい、まずい、まずい、まずい……、内府自体にはもはや打つ手はほとんどない。内応するように取り付けた者たちの去就が向後の、渠の行く末を決するのだ。
 落ち着かず、爪を歯ですり潰すような勢いで噛みながら、内府は床机から立ち上がって幔幕の外へと歩み出た。
 当然、渠の側には小姓がつきしたがう。
 そこかしこで、殺気だった将兵が行き交い、あるいは警護に立っていた。
 そんななか――
「殿、御注進でありまする!」
 声を張り上げながら旗本、野々村四郎右衛門(ののむらしろうえもん)が馬に“乗ったまま”内府の前に出てしまった。
 日の本でも類をみない戦場(いくさば)の空気を当てられ、つい礼を失してしまったのだ。
 だが、このときの内府はふだんの鷹揚さを極度の焦りから忘れている――結果、
「うぬ、馬も下りずにわしの面前に立つか!」
 怒鳴るや、内府は太刀を抜き放つや、一閃する。
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