忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

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　　六

　囲炉裏をはさんで、小平次と吟は夕餉をとっていた。
　残りの忍び衆は祖父も含めて島の見回りに出ている。小平次たちも食事が終われば余の者と入れ替わりで夜警に当たることになっていた。
　食事の中身は、主食こそかて飯だが、菜は鯛の塩焼きに平目のしょうが酢とまず彼らの立場では口にできない豪勢なものだ。それも今や美味さは半減している。豊の言葉が胸を重苦しくし、食欲を減退させていた。
　せめてもの救いは、豊とともに食事を摂らずに済んでいることだろう。
「ねえ、お頭こっちに来なよ」
「なぜです？」
「いいことをしてあげようと思ってさ」
　厠からもどった吟は、色っぽい目つきをしてみせた。
「犬の尻の穴を舐めるのと同じくらいにおぞましいので結構です」
「誰の愛撫が犬の尻を舐めるも同然なのさ」
　小平次の軽口に、吟は声を裏返せて怒鳴る。
「だって、あなたほど立派な一物を持った仁をわたしはほかに知りません」
「もう、お頭ったら」
　再びの冗談に、吟は羞恥心をのぞかせた。
「すいません、ちょっと気分が悪くなったので厠へ」
「人の可憐な恥じらいを汚物みたいに扱うんじゃないよ」
　男にもどったのち、まったく、といつもの声でいって吟は半眼でこちらをにらんだ。
　それに小平次は微苦笑で応じる。こちらを励まそうという心遣いのおかげで空元気程度は気力がもどってきた。箸の動きがわずかにだが早まった。
　が、それからしばし食事が終わるころになって、
「あの小娘のいうこともあながち間違っちゃいないのが痛いねえ」
　ふいに吟がつぶやくように声を漏らした。仲間たちの空気の微妙な変化の理由を問われて何があったかつたえてある。
　うつむきがちだった小平次は視線をあげて彼女を視界にとらえる。その表情は憂鬱なものだ。