忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 ただ少なくとも、必ずどこかに敵は隠れている。こちらの把握していない舟をどこかに隠していない限り、島を脱した可能性は低い。そして、やくざ者たちが水軍の裔が相手とはいえ堅気を相手におめおめ逃げ出すとは思えなかった。
 集落をなるべく一望できる位置に馬二を待機させる。いざというときに弩で援護してもらうためだ。そこに寄騎として五人ほどの男衆を置いた。
 他方、残りの四十人と少しの男衆と小平次たちは二手に別れて行動する。
 忍び衆は重左エ門、小平次、茂平治と、吟、太蔵に組分けし先頭を進んだ。茂平治が加わっているのは、
「孫の初仕事が成就するか否かという時に待ってなどいられるか」
 とふいに“まとも”にもどった茂平治が訴えたためだ。
 一抹の不安をおぼえたが、他方で胸を熱くもしていた。もはや、祖父が何を考えているかその胸中を推し量るのはむずかしい。だから、自分を思ってくれていたことを確認できて本当は泣きたいほどの気分を抱いていた。当人には、
「お願いもうしあげます、祖父上様」
 と告げるにとどめたが。
 まず、最初の家屋の確認に当たった。戸口が開け放たれた住居は要注意だが、特になにもなく終わる。角度を区切るようにして内部をうかがう技術を使って屋内をうかがい、土間にも板の間にも誰の姿もないことを確認した。
 突如として太蔵が連れた吉足が猛烈に吠えだす。土間の隅に転がる逆さの桶に鋭い視線が向けられていた。
「お頭、なにかが“焦げる”臭いがする」
 後退しながら、太蔵が叫んだ。
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