忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 屋根にへばり付いていた、恐らくは家中が派遣した忍びは刃が到達するより早く体を開いている。攻撃を躱すや忍刀を抜き放ち得物を青眼へと構えた。
「何故に邪魔立てをいたすか、小僧? うぬは南海道か山陽かのいずかたかの家中の忍びか?」
「さにあらず」
「ならばなにゆえ」
「依頼ゆえだ」
 小平次の返答に、相手は一瞬目を見張る。そして笑声をもらした。
「地下ずれに指図されるとはなさけなし」
 以前であれば、この言葉に少なからず小平次は心を乱したはずだ。だが、今の彼は冷静そのものだった。
「その地下ずれから漁場を奪おうというさもしい了見の者に仕えるのは誰だ?」
「おのれ」
 小平次の反撃に、相手は双眸に憤怒の光を宿す。

● ● ●

 ひとりにつき、ふたり以上で対応するよう男衆には言い含めていた。
 腕に覚えのある元武家の無宿はともかく、度胸が頼みのやくざ者ならそれで対処できるだろう、と。
 現実には“戦”ではなく精々が喧嘩程度しか経験のしていない男たちはつい、ひとりで相手を渡り合ったり逆に二対一の状況に持ち込まれるなどしていた。そのせいで、ひとりふたりと深手を負う者が現れている。
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