忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 ただ、全体としては島民側が優位にことを運んでいた。
 その原因の一つが――。

 茂平治は複数の手裏剣を一度に放つ。それも右、左と立てつづけに。
 長脇差や大刀で防御しようと関係ない、一斉に放たれた手裏剣をすべて打ち落とすのは至難の業だ。
 結果、悲鳴や苦悶の声があがることとなる。相手が隙を見せたところで、一投入魂の一撃を放ってそれぞれ仕留めた。近づくことさえ許されずに四人のやくざ者が命を落とし、あるいは虫の息となる。だが、物量には限界があった。
 並行して吟も手裏剣を放っており、こちらも三人の敵を行動不能に陥らせた。
「先々代の仕込みの業、舐めるんじゃないよ」
 吟は師を前にしているせいか一段と気合が入っている。
 まったく、また“男”にもどっておるぞおぬし――茂平治は口の端をかすかに持ち上げた。
切れたか――他方、、腰の革袋が空とったのを茂平治は指先で確認する。ただ、頭のなかは冬の夜気のごとく澄んでいた。ふだんの霞がかかったような状態が嘘のようだ。
 ふと、日常のことに頭の片隅の部分が意識を向けたせいで苦い気持ちをおぼえる。
「爺の手裏剣は切れたぞ、今だ仕留めろ」
 茂平治の動きが止まったのを見てやくざ者のひとりが怒鳴った。それに勢いを得て、複数の敵が殺到してくる。
 彼らのひとりがくり出した槍の一突きが茂平治の胸をつらぬいか。かに見えた瞬間、その姿は元居た場所から移動している。
 敵の眼前へ。相手がそのことに気づき、目を見張ろうとしたところで銀光が喉首へと走った。
 息が苦しい、と違和感とともに喉へ手をやり深い傷口に愕然となる。
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