81 / 141
81
しおりを挟む
誰かが住まう痕跡はないが、誰ぞ人間がいることは確か――人が移動した痕跡を発見していたのだ。
しかも、自分が浜に流れついたのを望める位置にまでそれはつづいていた。
これはあくまで想像でしかないが、くだんの人物は小平次が意識を取り戻すところを目撃し引き返したのではないだろうか。
痕跡はそれを裏付けていた。そしてそれが確かだとすれば、くだんの人物は御庭番である公算が高い。祖父が海に敵を叩き落した光景が脳裏によみがえった。
だとすれば油断のならない状況だ。出口のない場所で敵とともにいるのだから。
とにかく、すこしでも目立たない場所へ――吟のもとへ素早くもどった小平次は彼女の腕に手をまわし移動を試みることにした。刹那、異変に気づく。熱い――吟の体が平素のそれとは違う熱を帯びていたのだ。
しまった、舌打ちしたい気分になった。妙な夢で醒めたせいか、あるいは一度死にかけたせいか判断が鈍っていた。まずは、吟のほうを気づかうべきだったのだ。それを怠ったせいで風邪をひかせてしまった。
「お頭」体を動かされたやっと吟は意識をとりもどす。
「どうやら人のいない島に流れ着いたようです。そして、御庭番も同様にここにいる疑いがあります」
小平次はぼんやりとした顔をする彼女に緊張を隠しきれない口調で告げた。
「すいません」「いつも世話になっているのは手前のほうです」
足手まといになったことを自覚し、吟が詫びの言葉を口にする。気にしないでください、と小平次は応じた。が、無事にこの状況を切り抜けられるかという不安は胸にある。
しかも、自分が浜に流れついたのを望める位置にまでそれはつづいていた。
これはあくまで想像でしかないが、くだんの人物は小平次が意識を取り戻すところを目撃し引き返したのではないだろうか。
痕跡はそれを裏付けていた。そしてそれが確かだとすれば、くだんの人物は御庭番である公算が高い。祖父が海に敵を叩き落した光景が脳裏によみがえった。
だとすれば油断のならない状況だ。出口のない場所で敵とともにいるのだから。
とにかく、すこしでも目立たない場所へ――吟のもとへ素早くもどった小平次は彼女の腕に手をまわし移動を試みることにした。刹那、異変に気づく。熱い――吟の体が平素のそれとは違う熱を帯びていたのだ。
しまった、舌打ちしたい気分になった。妙な夢で醒めたせいか、あるいは一度死にかけたせいか判断が鈍っていた。まずは、吟のほうを気づかうべきだったのだ。それを怠ったせいで風邪をひかせてしまった。
「お頭」体を動かされたやっと吟は意識をとりもどす。
「どうやら人のいない島に流れ着いたようです。そして、御庭番も同様にここにいる疑いがあります」
小平次はぼんやりとした顔をする彼女に緊張を隠しきれない口調で告げた。
「すいません」「いつも世話になっているのは手前のほうです」
足手まといになったことを自覚し、吟が詫びの言葉を口にする。気にしないでください、と小平次は応じた。が、無事にこの状況を切り抜けられるかという不安は胸にある。
0
あなたにおすすめの小説
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
花嫁
一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。
無用庵隠居清左衛門
蔵屋
歴史・時代
前老中田沼意次から引き継いで老中となった松平定信は、厳しい倹約令として|寛政の改革《かんせいのかいかく》を実施した。
第8代将軍徳川吉宗によって実施された|享保の改革《きょうほうのかいかく》、|天保の改革《てんぽうのかいかく》と合わせて幕政改革の三大改革という。
松平定信は厳しい倹約令を実施したのだった。江戸幕府は町人たちを中心とした貨幣経済の発達に伴い|逼迫《ひっぱく》した幕府の財政で苦しんでいた。
幕府の財政再建を目的とした改革を実施する事は江戸幕府にとって緊急の課題であった。
この時期、各地方の諸藩に於いても藩政改革が行われていたのであった。
そんな中、徳川家直参旗本であった緒方清左衛門は、己の出世の事しか考えない同僚に嫌気がさしていた。
清左衛門は無欲の徳川家直参旗本であった。
俸禄も入らず、出世欲もなく、ただひたすら、女房の千歳と娘の弥生と、三人仲睦まじく暮らす平穏な日々であればよかったのである。
清左衛門は『あらゆる欲を捨て去り、何もこだわらぬ無の境地になって千歳と弥生の幸せだけを願い、最後は無欲で死にたい』と思っていたのだ。
ある日、清左衛門に理不尽な言いがかりが同僚立花右近からあったのだ。
清左衛門は右近の言いがかりを相手にせず、
無視したのであった。
そして、松平定信に対して、隠居願いを提出したのであった。
「おぬし、本当にそれで良いのだな」
「拙者、一向に構いません」
「分かった。好きにするがよい」
こうして、清左衛門は隠居生活に入ったのである。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる