忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 あの、そこに豊がすこし遠慮がちに声をあげた。
「村の衆に力を借りるのはどうでしょう? 塩飽島の衆に合力願った例もありますし」
 あ、と小平次は胸のうちでつぶやく。
 豊後森藩の件のときのように、余人の力を借りなければ絶対にできない、そういう状況ではないため端からそういう考えは頭になかった。だが、考えてみればこれは“尋常の”忍び働きではないのだ、なにも独力でやりきる必要性はない。
「その手がありましたね、ありがとうございます」
 反射的に礼をのべると豊は照れたような顔つきをした。
 と同時に、小平次の脳裏にひらめくものがある。力を借りる、といえば――そんな言葉が脳裏に浮かんだ。

 古びた神社の敷地の大木の根元に人影が屈み込んでいる。小平次たちのいる集落からは直線距離にして五里ほどの場所で蠢く野良着姿はあきらかに近隣の百姓だ。あたりをうかがいながら不審なようすでなにかを地面に埋める。
 それは油紙で幾重かにつつまれた書状だった。埋め終えると、男はそそくさと去って行く。
 それを確認し、物陰から人影がにじみ出るように現れた、余人の目があればそんなふうに映っただろう。見事な隠形で隠れていたせいで完全に陰と一体化していたのだ。獣ですら気づかずに側を通り過ぎるほどの気配の稀薄さだった。
 だからこそ無宿忍び衆がひとり利助は、村々の者とのつなぎを取る役目についている。
 小平次たちが推量したように確かに集落には内通者がいたのだ。
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