忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

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　始まりは貧乏徳利を手に荒れ寺で酒を飲んでいたときのことだった。元は家中の忍びとして利助たちもまた藩の内外に出向いて忍び働きに当たっている。
　下手を打つと一揆になりかねない、百姓の争いごとが大事になりかけたところに調べに出されることもあった。そういったなかで、村方三役を巡ってなど同じ村の百姓同士にさえ諍いがあることを利助たちは知悉していた。
「目の上のたん瘤に当たる者を殺すと請け負い、謝礼をもらった上で殺した者の家から金目の者を盗めばかなりの分限になるだろうな」
「なるほど。依頼主に周辺のことを聞いておけば、逃げるのも容易いという寸法だ」
　上機嫌に冗談を交わした。そのはずだったが、ふいに沈黙がおとずれる。お互いがお互いの目をうかがい合った。本気でやるつもりがあるか、ということをそれぞれ確認したのだ。
　本音をいえば、いくらなんでも非道に過ぎる、とみなが思っていただろう。
　だが、そこは集団の悪いところが出た。なんとなく、ひとりでないせいで責任を無意識のうちに自分以外に転嫁したのだ。やろうと言い出した者が悪い、いやそれに乗っかる発言をした者が悪い、あるいは制止のせりふを吐かなかった者が悪い。
　そうしているうちに、“冗談の延長”として仲間のひとりが実際に集落の住人のひとりから話を聞き出し、村役人に不満を持つ者を割り出してくだんの話を持ち出してしまった。
「金を借りれないと大事な娘を女郎に落とさねばならない、というのに名主の奴は冷たい顔をしやがった」
　といって村の男はありったけの鳥目をを掻きあつめて差し出したのだ。
　持ち帰られたその輝きに利助たちはつい魅入られる。「なに、相手は没義道(もぎどう)の男」という心理もあった。