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目を開くや、中腰になって鎖打棒を構えて周囲に視線を走らせる。疲労がとれず体が重いがそんなことをいっていられる状況ではない。御庭番との戦いで既にひとりを失っている。残りの仲間の数は自分をいれて五人。
だが、悪くすると“今の”でそれがさらに減った危険性があった。
裂け目だらけの濡れ縁の先、視野に横たわる人影を認める。鉄砲の上手の三吉だ。左胸を矢で射られていた。鉄砲と違って火縄の明かりもなく、また銃火も生じない矢を使った得物は闇において特に厄介な存在だ。
口ほどにもない――『拙者こそは那須与一すら凌ぐ飛び道具の上手』と普段うそぶいていたのを思いだし弁造は腹を立てる。
が、漫然と状況を確認していたわけではない。近くに置いていた即席の“楯”を手にしたのだ。廃材を利用して作った物だった。弁造と同じく飛び起きた残りの二人も上半身を隠せる程度のそれを前にし、中腰の姿勢であたりをうかがっている。
「何事が起きた?」「三吉が殺された」
位置の関係で三吉の死体が見えない乳切木の遣い手の忠次があげる疑問に弁造は早口に応じた。とたん、舌打ちが聞こえる。
「この調子だと、定二のやつも始末されたと見ていいだろうな」
錫杖を得物とする半平が独語に近い口調でささやいた。が、予想を裏切って当の定二が静かな足取りで脇から姿を現す。
「無事だっ――」「もはや、止めにせぬか」
たか、と言いかけた弁造の声を定二はさえぎった。
「なんのことだ?」
「かような人倫にもとる真似のことだ」
「なにを今さら」定二のせりふを半平は嘲笑う。
「渡り忍びという生業があるというのだ」
聞き覚えのない単語に、利吉たちは眉をひそめた。
だが、悪くすると“今の”でそれがさらに減った危険性があった。
裂け目だらけの濡れ縁の先、視野に横たわる人影を認める。鉄砲の上手の三吉だ。左胸を矢で射られていた。鉄砲と違って火縄の明かりもなく、また銃火も生じない矢を使った得物は闇において特に厄介な存在だ。
口ほどにもない――『拙者こそは那須与一すら凌ぐ飛び道具の上手』と普段うそぶいていたのを思いだし弁造は腹を立てる。
が、漫然と状況を確認していたわけではない。近くに置いていた即席の“楯”を手にしたのだ。廃材を利用して作った物だった。弁造と同じく飛び起きた残りの二人も上半身を隠せる程度のそれを前にし、中腰の姿勢であたりをうかがっている。
「何事が起きた?」「三吉が殺された」
位置の関係で三吉の死体が見えない乳切木の遣い手の忠次があげる疑問に弁造は早口に応じた。とたん、舌打ちが聞こえる。
「この調子だと、定二のやつも始末されたと見ていいだろうな」
錫杖を得物とする半平が独語に近い口調でささやいた。が、予想を裏切って当の定二が静かな足取りで脇から姿を現す。
「無事だっ――」「もはや、止めにせぬか」
たか、と言いかけた弁造の声を定二はさえぎった。
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「かような人倫にもとる真似のことだ」
「なにを今さら」定二のせりふを半平は嘲笑う。
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聞き覚えのない単語に、利吉たちは眉をひそめた。
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