忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

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「それはまことですか」
「かような嘘、ついてどうするというんです」
　小平次に確認に、丁稚は怒ったような顔をした。その反応が、彼がどれだけ切羽つまった思いを抱いているかを如実に感じさせる。
「承知しました。とにかく、まずは店へとまいりましょう」
「はい、お願いします」小平次の提案に、丁稚は今度は泣きそうな顔つきになった。

　小平次たちが呼び出されたのは江戸の西方、東都青山の界隈だ。大名屋敷が多く、またそれに比肩するほどに田畑、百姓地が土地を占めている。人目につきにくい場所を選んだのだろう、御庭番の住処のひとつである桜田の御用屋敷にも比較的近いのも理由かもしれない。むろん、時刻は夜更けでひと気の絶えた頃合だった。
　小平次、吟、太蔵、馬二、定二はそれぞれ得物をたずさえ人家も灯りも遠くにしか見えない畑の真っ只中につどう。どうせ正体は露呈しているのだから、と視界をより広く確保するために覆面はしていない。
『そなたらの生業の要である孫作の命が惜しくば、青山まで参れ。久留島家の一件、野州の一件とそなたら、吾と同じ家中の者が邪魔立てをしたことは分かっている――庄右衛門』
　そんな内容の文が小僧によって孫作の大店に届けられたのだ。文には孫作の髷も同封されている。
　刻限は今宵の丑三つ時のことで、策を弄する時間はほとんどなかった。
　畑には先客の姿があった。覆面をせずに顔を露わにした庄右衛門、それに月代の伸びた浪人態の男たちだ。
「私怨のために“朋輩”を動かすわけにもいかんからな、金でこの者たちを雇った次第だ」
　庄右衛門は、十人からなる加勢を手でなんら悪びれることなく示す。むしろ、よくこれだけ集めただろう、とでもいいたげな顔つきをしていた。