忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「死んでも“死なない”か。素敵な了見だね」
 吟がかすかに涙で目を光らせながら微笑する。
「結句のところ、武士が戦国乱世に刀槍をふるったのは子孫へと家をつたえるためだからな。家中の士でなくなった俺たちが伝えるもの、相手というのはそういうものかもしれないな」
「みんなに褒めてもらえてうれしかった」
 太蔵が感想をのべ、馬二も自分なりの思いを告げた。
 確かに馬二のいうように、家中に仕える忍びであればあれほどの人数に感謝されることはないだろう。上手くいけば忍びのかかわった事件は表沙汰にならない。そして、あきらかになるようでは失敗だ。
 重左エ門の死を知ったときは凍えるような思いがした心がすこしずつほぐれてきたその折、
「ここに小平次様はおられますか」
 と木綿のお仕着せ姿からして店者(たなもの)、それも丁稚だろう者が血相を変えて飛び込んできた。
「なんだい、騒がしい」
 小女が眉間に皺を寄せて非難するが、
「小平次様」
 とこちらを認めた丁稚はそんな声など耳にとどかない様子で距離を詰めてきた。その面貌にはなんとなく見覚えがあった、そのことからして孫作の店の者だろう。
「いかがなされました」
「主が、孫作が拐しに遭いました」
 不吉な予感をおぼえたずねた小平次に、押し殺した声で丁稚は明かす。
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