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立てつづけの内輪の人間の死に、小平次たちは葬儀だけでは始末し切れない思いを抱いていた。それを晴らすために。みなで小料理屋にあつまり小座敷で酒宴をもよおすことになったのだ。この場には、定次はみずから遠慮して姿を見せていない。
「重左エ門のやつ、まったく泳げなくてねえ。どうやって、最初に泳ぎを覚えたか分かるかい、小さん?」
「いいえ」
自然と重左エ門の生前の思い出話に花が咲いた。
「泳ぎだした当時、獣遁に遣ってた犬の泳ぎを見て泳ぎ方をおぼえたのさ」
吟の返答に、小平次は声を立てて笑い「重左(じゅうざ)さんらしい」と言葉をかさねる。
「そういえば、小さい頃は父が遣ってた雌犬に優しくされて『全成(またなり)を嫁にする』といって聞かなかったんだよ」
「全成が子を産んで、儚く散ったなあいつのはじめての懸想は」
吟の言葉に、太蔵がさらに面白い返しをする、それでますます小平次は笑い声を大きくした。
「惚けた御隠居が飯を余分な回数食べるもんだから、お頭の米櫃は空になってたね、そうえいば」
「あれには困りました」
「そんなことがあったのか、言ってくれりゃすこしくらい米を都合してやったのに」
「おいら、も」
結局、夕刻に始まった酒宴は夜が更けるまでつづく。
そしていい加減、話が尽きかけたところで通夜の席の前後に思ったことを小平次は語った。
「重左エ門のやつ、まったく泳げなくてねえ。どうやって、最初に泳ぎを覚えたか分かるかい、小さん?」
「いいえ」
自然と重左エ門の生前の思い出話に花が咲いた。
「泳ぎだした当時、獣遁に遣ってた犬の泳ぎを見て泳ぎ方をおぼえたのさ」
吟の返答に、小平次は声を立てて笑い「重左(じゅうざ)さんらしい」と言葉をかさねる。
「そういえば、小さい頃は父が遣ってた雌犬に優しくされて『全成(またなり)を嫁にする』といって聞かなかったんだよ」
「全成が子を産んで、儚く散ったなあいつのはじめての懸想は」
吟の言葉に、太蔵がさらに面白い返しをする、それでますます小平次は笑い声を大きくした。
「惚けた御隠居が飯を余分な回数食べるもんだから、お頭の米櫃は空になってたね、そうえいば」
「あれには困りました」
「そんなことがあったのか、言ってくれりゃすこしくらい米を都合してやったのに」
「おいら、も」
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