忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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    六

 懐が重い。百両の金子がおさめられているからだ。
 ただ、これが重左衛門の命と引きかえにして釣り合うものかといえば、まったくそんなことはない。
 家中の忍び働きの褒賞ではまず手に入らなかったであろう額だが心は沈んでいた。
 戦いの翌日、小平次たちは依頼を受けた村にもどっていた。重左エ門の弔いをするためだ。祖父を看取るどころか、死んだ仲間を供養することすら満足にできないのが忍びなのだと小平次は実感した。
 明るくなり午下がりに近隣の寺から呼ばれて僧が姿を現す。通夜をおこなうのだ。
 だが、その前に小平次は目を見張る光景を目撃することになる。
 村の衆が――次々と姿を現したのだ。この村の者だけでなく、被害に遭った者の縁者たちも一帯から集まった。みずからが親しい者を亡くしたそれとかさなるのか、心底痛ましげに悔やみの言葉を小平次に述べる者が多くいる。
 喪失感は決してなくならなかった。だが、重左エ門の死に対し意味、意義を感じることができたのは大きい。
 これだけの、名主の屋敷の二間続きの部屋が身動きできないほどの人間で満たされたのだ。
「我らはあなた様がたのことを忘れません。子々孫々と語り継ぎます」
 先日の夜、厠から出た小平次に仇討ちを必死に訴えた娘も、翳りはあるもののどこかすっきりとした笑顔で告げた。
 その言葉に小平次は胸を衝かれる。そうか、と思った。渡り忍びはただ依頼主のことを助けるだけではない――その誉れを言い伝えてもらうことすらできるのだ。
 重左エ門、お手前は命を落としましたが“死んでいません”――。
 棺のなかに手下に向かい小平次は真摯な声で告げる。
 やがて通夜は終わり、葬式も終わった。数十年を生きた人間を送るのには弔いの時間はあまりにも短く感じられる。

 江戸への帰還は位牌とともに、ということになった。
 しかも、本所深川の裏長屋で待っていたのは祖父の遺骸だった。こちらの弔いも、孫作の手配もあって粛々と進み既に済んでいる。
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