忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 とたん、大刀を正面斬りに送る。顔を大きく歪めながらも相手は防いだ。が、その腹のあたりは着実に赤黒く染まりつつあった。
 小平次には血が流れて弱るのを待つつもりなどない。下段から脇差を振り上げた。
 ふいに放たれた死角からの一撃に相手は小手を裂かれる。
 が、村々を襲うことを生業にした者の執念か、それでも片手で分銅を放ってきた。
 これには小平次も回避が完全には間に合わない。ほおを痛みを感じた。
 が、無視して大刀で袈裟斬りを見舞う。攻防は瞬く間の出来事だった。ついに決着がつき、相手は目を見開いてその場に倒れ伏す。
 残心、そして小平次は吟の戦いに意識を向けた。
 刹那、鎖に片腕を封じられながらも肉薄しての吟の脇差の一撃が相手に決まる。片足をやや引きずっているのは分銅で打たれたか。
 無宿忍び衆はここに滅んだ。小平次はすばやく視線を転じる。
 敵はほかにもいる。庄右衛門属する御庭番だ。
 今このとき、馬二が体勢を崩し斬り殺されようとしていた。彼が斬殺される――より早く、鎌や鍬などで武装した百姓衆が四方から集まってくる。彼らは大声を張り上げ、とにかく得物をふりあげていた。
「退け、退け」
 とたん、庄右衛門の叫びがあがる。あくまで冷静な声音だった。
 結局、敵は馬二や太蔵にとどめを刺すことなく、疾風と化して去って行く。
 上手くいったか――小平次は前もって、百姓たちを動員できるよう手配していたのだ。
 ただし、実際の手出しは危険のため手出し無用と伝えてあった。
 つまりは擬勢の計、だった。単なる武士ならともかく、忍びであれば形勢不利と見ればおとなしく退くだろうという予測が図に当たった形だ。重左エ門、仇はとったぞ――亀太郎の分はまだだが、とりあえずは小平次は安堵の息をつく。
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