犬を舐めるな従えよ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 深夜のことだった。光脩は枕元に気配を感じ、掻巻を撥ね退けとっさに体を横に転がす。風を巻いて立ち上がった。視界には、枕元に立つ人影をとらえていた。最初は犬家康が本性を表わして寝込みを襲おうとしていたのかと思ったが違ったようだ。
 相手の装束が渋柿色であるのが辛うじて距離が近いために闇の中でもわかる。そして、その身なりからして相手の正体は、
 忍者だよな――。
 名前こそ耳にしたことがあるが、当然ながらいち陰陽師にしか過ぎない彼が目の当たりにしたのは初めてだ。
「おまえ、なにをしに来た」
 光脩はやや喧嘩腰だが怪訝さも入り混じった声でたずねる。攻撃の意図があるなら、とうに仕かけてきておかしくない。だが、相手はそうしていなかった。ただ、枕元に立つ、そんなことをする意図が理解できない。
「わたしは幕府に仕える伊賀者だ」
 その声を聞いて光脩は驚いた。相手は女だ。肌が色を失ったかのように白く、切れ長の目をしたその姿は美しいが見る者に冷たさを感じさせる風貌をしている。
 そんなやり取りの横で、犬家康は起きる気配は一切なく熟睡していた。なにか夢を見ているらしくしきりに前脚と後ろ足を床の上で動かしていた。と思うと、お手、おかわり、さらに腹を見せて仰向けになる。馬鹿犬が――光脩は頭の片隅で犬家康のことをそう評しながら、
「その伊賀者が俺に何の用だ」とたずねた。
「忠告のために参上した」
「忠告? 忠告ってなんだ?」
 淡々と告げる伊賀者に光脩はいぶかしげな声を出す。
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