犬を舐めるな従えよ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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『光脩、何とかいたせよ』と犬家康が無責任な発言に及ぶ。
 どうにかってったって――光脩が磨いてきたのは妖、幽霊を相手にする技術で生憎のこと人間は対象外だ。と、そこまで考えたところで、
 いや、ひとつあるか――。
 と胸のうちでつぶやいた。正直、使ったことがないため一発勝負になるがしかたない。かつて安倍陰陽師が用いた術だ。
 駆け寄ってくる男たちを見すえ、
「諸将吾力貸、四縦五横禹為除道蚩尤、敵陥大笑」
 格子模様を指先で描く。が、見回りの連中は足を止めない。
 失敗したのか? 光脩は自分が見えないと分かっていても四肢に力がこもった。
 だが、次の瞬間、異変が起こった。憤怒の表情の男たちの顔がゆるんだ。次第次第に笑顔になり笑い声を大声で漏らし始めた。これこそがかつて安倍晴明が天皇に余興を命じられ披露した人の感覚をあやつる術だった。
 この間に、光脩たちは西丸へと進んだ。豊はかすかな音を頼りにするかなり困難作業だ。
「おい、やっとついたな」
 光脩は興奮をにじませ濠の側へと立つ。とたん、腰のあたりに衝撃が走った。
 瞬時に、体を浮遊感が包み、次いで光脩は水面(みまも)へと吸い込まれていく。顔面に衝撃、一気に着物は重くなっていた。水面(すいめん)へと顔を出す、それだけのことに渾身の力がいた。それでも継続は叶わない。
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