18 / 131
18
しおりを挟む
錆びついたのは業前だけではない、か――精神もまたかつての鋭さを失っているのだ。
したが、と隣の次郎丸に目線を移す。
アルメイダとの間にはさまれ、ふだんはお目にかからない豪勢な食事に上機嫌でいた。突如として泣き出したときの名残はそこにはない。そういうところはいまだに子どもなのだろう。
しかし、泣き止んだあとに彼が発したせりふは戦国乱世とはいえ子どもには不似合いなせりふだった。
「司祭(パードレ)に合力くださいませ、ロレンソ様」
意を決したような顔でそう告げたのだ。
合力、とロレンソは聞き返した。
「アルメイダ様は、毛利家を相手に苦戦している大友家を救わんと合力されておいでです」
なるほど、とロレンソは内心思う。なんのきっかけもなく突然、畿内をおとずれたのには何かあるとは考えていたのだ。耶蘇教の軍師としてアルメイダが活動しているとうのなら得心がいくというものだった。
「さようにもうせと、司祭(パードレ)の頼まれたのか」
ロレンソは次郎丸をおびえさせないよう怒りをおさえながらたずねる。それでもほおの辺りの筋力がこわばっていた。
「さにあらず。これは司祭(パードレ)の存念を知った上でのそれがしがの一存でなしたことです」
次郎丸は必死の顔で言葉をかさねた。そのまなざしを見ていると、思い出したくない過去が記憶の底からよみがえってくる気配がする。
それにロレンソは切支丹だ。自分は耶蘇教と出会ったことで救われたという思い、感謝がある。
交錯する感情が鎖となって総身を縛り上げている、そんな心地がした。後ろ暗さとそういった心持ちが混じり合った。
「承知した」
ロレンソは苦渋を感じながらもあごをゆっくりと引く。
少し物思いにしずんでいたところ、気づくと次郎丸が一心にこちらを見つめていた。
したが、と隣の次郎丸に目線を移す。
アルメイダとの間にはさまれ、ふだんはお目にかからない豪勢な食事に上機嫌でいた。突如として泣き出したときの名残はそこにはない。そういうところはいまだに子どもなのだろう。
しかし、泣き止んだあとに彼が発したせりふは戦国乱世とはいえ子どもには不似合いなせりふだった。
「司祭(パードレ)に合力くださいませ、ロレンソ様」
意を決したような顔でそう告げたのだ。
合力、とロレンソは聞き返した。
「アルメイダ様は、毛利家を相手に苦戦している大友家を救わんと合力されておいでです」
なるほど、とロレンソは内心思う。なんのきっかけもなく突然、畿内をおとずれたのには何かあるとは考えていたのだ。耶蘇教の軍師としてアルメイダが活動しているとうのなら得心がいくというものだった。
「さようにもうせと、司祭(パードレ)の頼まれたのか」
ロレンソは次郎丸をおびえさせないよう怒りをおさえながらたずねる。それでもほおの辺りの筋力がこわばっていた。
「さにあらず。これは司祭(パードレ)の存念を知った上でのそれがしがの一存でなしたことです」
次郎丸は必死の顔で言葉をかさねた。そのまなざしを見ていると、思い出したくない過去が記憶の底からよみがえってくる気配がする。
それにロレンソは切支丹だ。自分は耶蘇教と出会ったことで救われたという思い、感謝がある。
交錯する感情が鎖となって総身を縛り上げている、そんな心地がした。後ろ暗さとそういった心持ちが混じり合った。
「承知した」
ロレンソは苦渋を感じながらもあごをゆっくりと引く。
少し物思いにしずんでいたところ、気づくと次郎丸が一心にこちらを見つめていた。
0
あなたにおすすめの小説
輿乗(よじょう)の敵 ~ 新史 桶狭間 ~
四谷軒
歴史・時代
【あらすじ】
美濃の戦国大名、斎藤道三の娘・帰蝶(きちょう)は、隣国尾張の織田信長に嫁ぐことになった。信長の父・信秀、信長の傅役(もりやく)・平手政秀など、さまざまな人々と出会い、別れ……やがて信長と帰蝶は尾張の国盗りに成功する。しかし、道三は嫡男の義龍に殺され、義龍は「一色」と称して、織田の敵に回る。一方、三河の方からは、駿河の国主・今川義元が、大軍を率いて尾張へと向かって来ていた……。
【登場人物】
帰蝶(きちょう):美濃の戦国大名、斎藤道三の娘。通称、濃姫(のうひめ)。
織田信長:尾張の戦国大名。父・信秀の跡を継いで、尾張を制した。通称、三郎(さぶろう)。
斎藤道三:下剋上(げこくじょう)により美濃の国主にのし上がった男。俗名、利政。
一色義龍:道三の息子。帰蝶の兄。道三を倒して、美濃の国主になる。幕府から、名門「一色家」を名乗る許しを得る。
今川義元:駿河の戦国大名。名門「今川家」の当主であるが、国盗りによって駿河の国主となり、「海道一の弓取り」の異名を持つ。
斯波義銀(しばよしかね):尾張の国主の家系、名門「斯波家」の当主。ただし、実力はなく、形だけの国主として、信長が「臣従」している。
【参考資料】
「国盗り物語」 司馬遼太郎 新潮社
「地図と読む 現代語訳 信長公記」 太田 牛一 (著) 中川太古 (翻訳) KADOKAWA
東浦町観光協会ホームページ
Wikipedia
【表紙画像】
歌川豊宣, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
魔王の残影 ~信長の孫 織田秀信物語~
古道 庵
歴史・時代
「母を、自由を、そして名前すらも奪われた。それでも俺は――」
天正十年、第六天魔王・織田信長は本能寺と共に炎の中へと消えた――
信長とその嫡男・信忠がこの世を去り、残されたのはまだ三歳の童、三法師。
清須会議の場で、豊臣秀吉によって織田家の後継とされ、後に名を「秀信」と改められる。
母と引き裂かれ、笑顔の裏に冷たい眼を光らせる秀吉に怯えながらも、少年は岐阜城主として時代の奔流に投げ込まれていく。
自身の存在に疑問を抱き、葛藤に苦悶する日々。
友と呼べる存在との出会い。
己だけが見える、祖父・信長の亡霊。
名すらも奪われた絶望。
そして太閤秀吉の死去。
日ノ本が二つに割れる戦国の世の終焉。天下分け目の関ヶ原。
織田秀信は二十一歳という若さで、歴史の節目の大舞台に立つ。
関ヶ原の戦いの前日譚とも言える「岐阜城の戦い」
福島正則、池田照政(輝政)、井伊直政、本田忠勝、細川忠興、山内一豊、藤堂高虎、京極高知、黒田長政……名だたる猛将・名将の大軍勢を前に、織田秀信はたったの一国一城のみで相対する。
「魔王」の血を受け継ぐ青年は何を望み、何を得るのか。
血に、時代に、翻弄され続けた織田秀信の、静かなる戦いの物語。
※史実をベースにしておりますが、この物語は創作です。
※時代考証については正確ではないので齟齬が生じている部分も含みます。また、口調についても現代に寄せておりますのでご了承ください。
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる