忍び切支丹ロレンソ了斎――大友宗麟VS毛利元就(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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“敵の敵”をすべて利用してみせる深謀遠慮は味方である了斎ですら薄ら寒い思いがした。
 一方で、子どもじみたいたずらを試みる彼に対しあきれもおぼえる。
 まったく、つまみどころのない仁だ――。
 一方、からかわれたことに気づいたのか金介は憮然とした顔つきになった。
「したが、大内の軍兵は我らに合力してくれるわけではない。城を陥とすにはそれはそれで方策が入用になる」
 アルメイダが期待するようにこちらの目をまっすぐに見る。
「わしにその策を考えろともうされるのか」
 まさか、ここに来て自分にお鉢がまわってくるとは思わず了斎は渋面となった。
「毛利の内情には詳しかろう。そなたのほうがよい策を思案しよう」
「我らは美保関の千酌浦に上陸し、末次に陣を敷く」
 適当なアルメイダの発言にたまらなくなったのか、金介がふたたび横から口をはさんだ。
「陣を敷いたあとは」
「各地から遺臣があつまり、すぐに城攻めに足る軍兵が揃おう」
 了斎の問いかけに、金介は自信ありげにうなずく。
 情勢によって人が容易く裏切り、あるいは日和見することは日の本に生きていれば誰でも一度や二度は見聞きする。
 二〇〇余の兵がおとずれたと聞いたところで、どれだけの将士があつまることか。なにしろ、今や毛利元就は山陰・山陽十カ国を支配する太守だ。しかも、恐ろしいのは元就本人だけではなく、元就に「(戦は)私は元春に及ばない」といわしめた吉川元春(きつかわもとはる)や、知将小早川隆景(こばやかわたかかげ)をはじめ優秀な将がそろっている。
 なにか、手立てが必要であろうな――了斎は胸のうちでつぶやいた。が、その眉間にしわが寄る。
 乗り気ではないはずだった。こたびの、尼子の軍兵に同道する件は。
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